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ゴジラ-1.0/Cのデッカードのレビュー・感想・評価

ゴジラ-1.0/C(2023年製作の映画)
4.5
オリジナル・カラー版と比較する視点で鑑賞した。

今回モノクロ化に当たって特に期待したのは、物語の舞台である戦後まもなくという空気感がオリジナル版より強くなっているかということと、昭和映画の持つモノクロならではの迫力が出せているかという2点だった。

結論から言うと、モノクロ版とオリジナル版を比べてみてそれぞれにいい部分があり、甲乙つけがたいというのが正直な感想。

モノクロ版の、先に物足りなかった点から。

モノクロにしただけでは、戦後まもない空気感を完全再現するところまでには十分至っていなかったように思った。
俳優はやはり顔立ちからして現代的で、セリフまわしも今風なので、昭和の黒澤映画やゴジラ('54)も含む純正モノクロ映画の持つ雰囲気を十分に出すことはむずかしかったように思った。


次にモノクロ化で効果的だった点を。

俳優の顔立ちについては現代的と書いたのだが、中にはモノクロ化によってより魅力が際立った俳優もいた。
オリジナル版から言われていたとおり駆逐艦「雪風」艦長堀田役の田中美央の顔立ちには昭和感があふれていて、藤田進のような風格すら感じさせる。
安藤サクラも小津安二郎映画に出てきそうな雰囲気で、決して古臭いだけではない気品ある戦後感が感じられた。
さらに水島役の山田裕貴の顔立ちに往年の銀幕スターのようなオーラを感じたのは意外だった。

野田が海神作戦の説明をするシーンで、モノクロゆえの印影の効果なのか、一瞬ではあるがオリジナル版では感じられなかったマッド・サイエンティスト的な表情に見えたのには迫力があった。
ゴジラ('54)の志村喬演じる学者もゴジラ殲滅に尽力しながら心のどこかで学者としてゴジラに興味をそそられているという矛盾した狂気が感じられたのだが、野田にもゴジラ殲滅にどこかおぼれたような、やはり戦時中は科学者だったらしいちょっと狂気じみた表情が鮮明になったのはモノクロ化の成果のように思う。

物語としてモノクロ化で効果を上げていた点をいくつか。

ゴジラがアメリカ軍艦などに被害を与えながら北上していることを伝えるアメリカの情報映像と本編のつながりが実にしっくりしていて切れ目を感じなかった。
また停泊していたり作戦行動をしている駆逐艦が、自分は写真でしか見たことがないからなのだが、とてもリアルに見えた。オリジナル版でも当然VFXの仕上がりのよさで違和感はなかったのだが、モノクロ版ではさらにリアルに見えたような印象を受けた。
それと、水島が秋津と野田に駆逐艦に乗せてくれと頼む夜のシーンの印影がモノクロになって鮮明になり、登場人物の心理も相まってかなり印象深い描写になっていたのは特筆すべき点だろう。

次に主役のゴジラだが、VFXゆえ違和感があるのではないかという危惧もあったのだが、意外にもオリジナルとは違う意味でリアルな存在感を感じさせていて効果的だった。
モノクロになったがゆえに銀座破壊シーンなどは記録映画を見ているような、オリジナル版とは異なる印象で圧倒的な存在感が感じられたのは驚きだった。
ゴジラが熱線を吐くシーンでの背びれの光などどうなるのかと思っていたのだが、モノクロゆえかえってリアリティが増していたように思う。
熱線の先に起こる核爆発は、これも記録映画でいろいろな映像を見てきたがゆえなのだが、色が抜けてより臨場感のある描写になっている感じがした。

モノクロ化に当たって、いろいろな手が加えられたようで、とはいえその一つひとつを視認できたわけではないのだが、オープニングの東宝ロゴから始まり作り手がオリジナル版とは違った鑑賞後感を狙った姿勢は評価されていいと思う。
純正モノクロ映画として作られた作品と比べるとモノクロの効果としては劣る部分が出てくるのは仕方ないのだが、ゴジラの登場場面が記録映画のような効果的なリアリティを生み出したことは本当に意外で驚きだった。

オリジナルカラー版、モノクロ版双方ある意味別モノとして甲乙つけがたいので、ソフト化に当たってはカップリングで、できるだけ安価にパッケージ化してほしいということだけは庶民の正直な気持ちです。
偉い人、お願いします。
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