netfilms

ストップ・メイキング・センス 4Kレストアのnetfilmsのレビュー・感想・評価

4.3
 冒頭のA24のロゴの登場に、ジョナサン・デミや俺たちのトーキング・ヘッズやデイヴィッド・バーンすら新進気鋭の企業に取り込まれてしまったというような嘆きもちらほら垣間見えたが、果たしてそうだろうか。80年代の傑作である『ストップ・メイキング・センス』から36年を経て、再び世に問うた『アメリカン・ユートピア』では、デイヴィッド・バーンの見立てによる絶妙な人種のバランスに拠り、スパイク・リーが監督に指名され、ドナルド・トランプ政権下におけるライブとはコンサートとは音楽とは芸術とはが盛んに議論された。反トランプの旗色を鮮明に打ち出すスパイク・リーの映画外での過激な言動がフィーチャーされるが、あくまで演奏と政治とは直接的な因果関係はない。然しながら混沌とした時代に『アメリカン・ユートピア』や今作が掬いし断片の数々は真に称賛されねばならない。

 本来ならば午前10時の映画祭案件としてプログラムに組み込まれねばならないニッチな案件を今こうしてA24が4Kにしたことで、午前10時ではなくても、日本中の劇場で1日何回も観られるのも、A24のクリーン・アップの成果だろう。然しながら『アメリカン・ユートピア』の36年前に現在の人種共生社会や白人優位社会の最期を予期していたデイヴィッド・バーンやトーキング・ヘッズの視座はあらためて賞賛されるべきだろう。私が特に好きな1曲は現代人の病理をひたすら痛快に歌う『Once in a Lifetime』で、今でもDJをやる時はたまにかけるし、冒頭の『Psycho Killer』なんかも最高だ。今作のライブは当時のトーキング・ヘッズのライブの濃度を極限まで高めた80年代的音楽の結晶ではあるものの、アメリカの80年代の白人音楽には背を向け、ワールド・ミュージックに描いた希望や視野を具体的に音に落とし込む過程では根強いアレルギーや表現としての葛藤もあっただろう。然しながらあまりにも若いデイヴィッド・バーンの脱臼するような身振りは天性のエンターテイナーであり、彼がひたすらシンプルに音のアンサンブルにこだわる様子は白人のクリシェを越えてひたすら聡明であり、40年後の音楽地図を俯瞰で示した傑作。
netfilms

netfilms