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ヴェルクマイスター・ハーモニー 4Kレストア版のnetfilmsのレビュー・感想・評価

4.2
 そもそもタル・ベーラの映画だから起承転結のある映画など望むべくもないのだが、初日に観てさっぱりわからず1週間感想を放置し、昨夜2回目を観たがさっぱりわけがわからない。クジラの目は兎も角としても、プリンスとはいったい何なのか?姿は現さず、声だけで紡がれる今作の主役の不在だけがスクリーンに横たわり続ける。それ自体がタル・ベーラの企てと言っては聞こえは悪いかもしれないが、クジラを広場に運び込んだトラックの鈍重な動きに孤高の作家タル・ベーラの企てはあると言っていい。ハンガリーの荒廃した田舎町。ヴァルシュカ・ヤーノシュ(ラルス・ルドルフ)は、天文学に興味のある郵便配達。彼は靴職人の工房に部屋を借り、仕事と家の往復の中、老音楽家エステルの世話をしている。エステルは、18世紀の音楽家ヴェルクマイスターへの批判をテープに口述記録していた。2人の親密な関係性は何度もリピートされるのでわかるのだが、血の繋がりがあるか否かは定かではない。然しながらヴェルクマイスター音律への違和を表明するエステルと天文学的に地球の自転を話すヤーノシュとは不思議にウマが合う。おそらく50カットにも満たないタル・ベーラの長回しはモンタージュの快楽を巧妙に避ける。世界が狂っているのかそれとも自分が狂っているのかという主人公の問いは純粋無垢で汚れを知らなからこそ罪深い。2000年代のタル・ベーラ映画ほどの振り切れた感じはないが、これもまたタル・ベーラと断言したいどこにもない質感を持った映画である。
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