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THEWILD 修羅の拳のnetfilmsのレビュー・感想・評価

THEWILD 修羅の拳(2023年製作の映画)
4.0
 違法賭博場での試合中に、誤って相手を殺害したことによる8年の刑を終えた元ボクシング選手のウチョル(パク・ソンウン)。釈放後は静かに暮らしたいと考えていた彼を刑務所の外で待ち受けていたのは、古くからの友人で犯罪組織の首領ドシク(オ・デファン)だった。ヤクザはしがらみからは簡単に足抜け出来ない。うんざりとした表情を浮かべながら、ドシクの誘いを一度は断るウチョルだったが、偶然出会ったコールガールのミョンジュ(ソ・ジヘ)に特別な何かが走る。ここまでの冒頭10分の立ち回りは圧巻の手際の良さで、ダイジェスト映像か何かにも見える。その時からウチョルはミョンジュに対し特別な感情を持ち、彼女の行動を逐一監視するようになる。いかにも退廃的な表情でファム・ファタールな表情を醸すミョンジュとウチョルの間にある男と女の引力は思いっきり石井隆の『天使のはらわた』シリーズの村木(むらき)と名美(なみ)ではないか。

 ミョンジュに性暴力を加えようとした汚職刑事のジョンゴン(チュ・ソクテ)をボコボコにしたことでこの街の厄介者になってしまう。その上、ファム・ファタールな女との間にウチョルはどうにもならない過去の運命の糸を引いてしまう。いかにもな雰囲気の韓国ノワールながら、ここにはどの日本映画よりも石井隆の村木(むらき)と名美(なみ)の影響がひしひしと感じられる。闇稼業で裏で結託するドシクとジョンゴンの裏取引によりウチョルは逮捕を免れるものの、その代償として脱北者によって構成された麻薬密売組織を仕切るガクス(オ・ダルス)を消すことを命じられることとなる。ここでも北と南とを分ける北緯38度線の影響は主人公の運命を大きく左右する。ファム・ファタールな女を通じ、この街の泥濘に足を引っ張られたウチョルは娘のようなミョンジュとの「ここではないどこか」を夢見ながら、悪夢のようなしがらみに足を搦め取られて行く。印象的な雨の描写が続き、その後は雁字搦めな描写が続く辺りも監督のキム・ボンハンは極めて石井隆的で、石井隆の後継者がここ日本ではなく、韓国に現れた事実に賛辞を送りたい。
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