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けんかえれじいのnetfilmsのレビュー・感想・評価

けんかえれじい(1966年製作の映画)
3.7
 昭和10年ごろの備前、岡山。岡山中学の放課後に、1人の少年が上級生たちに呼び出され、女といたかどで詰問されるが、彼を袋叩きに出来る者など1人もいなかった。岡山中学の名物男南部麒六(高橋英樹)は「喧嘩キロク」として有名だ。キロクに喧嘩のコツを教えるのが、先輩のスッポン(川津祐介)。そのスッポンのすすめでキロクは、OSMS団に入団した。OSMS団とは岡山中学五年生タクアン(片岡光雄)を団長とするガリガリの硬派集団だ。そのOSMS団と関中のカッパ団とが対決した。キロクの暴れっぷりは凄まじく、この喧嘩で副団長となった。だが、キロクには下宿先の娘道子(浅野順子)が大好きで、硬派の手前道子とは口もきけないで悩んでいた。反対に道子は一向に平気でキロクと口を聞き、野蛮人のケンカ・キロクには情操教育が必要とばかり、彼女の部屋にキロクを引き入れてピアノを練習させる始末だ。そのうえ、夜の散歩には必ずキロクを誘いだした。煩悩を断ち切ろうと学校では殊更暴れ廻り、配属将校と喧嘩したため、若松の喜多方中学校に追い出されてしまう。

 ケンカ無双で、たった1人で上級生たちを叩きのめす様子は『悪太郎』や『悪太郎伝 悪い星の下でも』でも見られたが今作も例外ではない。全能感漂う若者は自分からケンカを仕掛けず、ギリギリの状態の中で一発逆転する。だが女にはめっぽう弱く、道子の前ではろくに口も利けない。道子が得意なピアノの前で、猫のように縮こまる姿が何とも可笑しい。ピアノの鍵盤を手ではないあれで弾く姿には過剰なギャグが見え隠れする。ケンカに明け暮れることでエネルギーを回復するキロクだが、軍国主義の風潮が彼の運命を残酷にも変えて行く。シュールなギャグマンガのようなアクションを持続させながらも、主人公が北一輝と遭遇する場面は、清順流のシニカルなムードが漂う。「ここではないどこか」を秘かに夢見ながらも、実際に岡山から福島に転校させられた主人公は時代の波に幽閉される。すっかり大人になった高橋英樹や野呂圭介らの学生役も滑稽だし、ヒロイン役の浅野順子の演技も何とも頼りないが、みさ子(松尾嘉代)のバーだけが違う次元を生きて、別世界から北一輝の背中を見送る。バンカラたちの時代への反乱は、60年代の全共闘世代に熱狂的に支持された。
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