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義父養父のnetfilmsのレビュー・感想・評価

義父養父(2023年製作の映画)
4.1
 濱口竜介監督の新作『悪は存在しない』と『Gift』という映画で主演を務めた大美賀均さんの初監督作ということで観に行ったのだが、若いのに随分と老成した作品で、煤けた色はかつての台湾映画のような雰囲気すら醸し出す。冒頭は親子3人でウナギを食べる場面から始まる。服飾デザイナーのリカ(澁谷麻美)は34歳で、向かい合うミノル(菅原大吉)とはどこかぎこちない。ミノルもまたその気まずい雰囲気を埋めるために、無理矢理言葉を紡いでいるように見える。「男に経済力は求めていない」が口癖の自由奔放な母(黒沢あすか)は少し前、ミノルと5度目の再婚をした。うなぎ屋の前で煙草をくゆらす母子の姿が何だかとても心地良い。そんなある日、リカはミノルの双子の兄・ユタカ(有薗芳記)を紹介される。菅原大吉と有薗芳記が双子の設定であることに唖然としたが、何となく雰囲気が兄弟に見えて来るから不思議だ(流石に双子には見えない)。

 『義父養父』という何とも奇妙なタイトルは、双子の兄ユタカと弟ミノルの関係性に起因する。末期がんを患い、余命いくばくもない兄のユタカはついこの間、弟の義理の娘になったリカに養子に来てほしいと秘かに願っている。ほとんど何の接点もない2人だし、若いリカにとってもこの親戚との同居はやんわりと断るべき案件のように感じるが、どういうわけか彼女はユタカの提案を受け入れる。その時点では老人の遺産目当ての魂胆だと疑われるべきだし、実際にサスペンスへと舵を切るべき物語であるが、そうはならない。ユタカの和式の部屋の一つ一つを見て回るリカの姿は何だか美術館巡りをする大学生のように見えて来る。JAZZのレコードに囲まれた居間では『東京物語』の笠智衆と原節子のように、ぎこちない2人はぎこちなく言葉を重ねながら、時間は過ぎて行く。だが主人公のリカはユタカの妻・フミコ(松田弘子)と対面した時、緩やかに血相を変える。末期がんを患ったユタカの妻フミコは何らかの精神疾患を抱えている。居間に佇む彼女の姿はペットの何かのようにぴくりとも動かない。かと思えば窓際でウクレレを弾き語るのだ。ウクレレ・ケースに隠し持つ何かの束には心底ギョッとさせられ、ふて寝したかに見えたフミコとリカのリバース・ショットの張りには今年最も驚く。在りし日の面影に想いを重ねる2人の女性の姿が重なるラストも奇妙な余韻を醸し出す。
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