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キムズ・ビデオ
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『キムズ・ビデオ』に投稿された感想・評価

CHEBUNBUN

CHEBUNBUNの感想・評価

4.7
【ミッション:シチリア島からVHSを奪還せよ!】
チェブンブンシネマランキング2023第19位▼
https://m.youtube.com/watch?v=r33poKknhBU&t=6180s


以前、CPH:DOX配信で五次元アリクイさん(@arikuigo)から紹介していただいた『キムズ・ビデオ』が山形国際ドキュメンタリー映画祭に来ると聞いたので観てきた。これが抱腹絶倒の傑作ドキュメンタリーであった。

伝説のレンタルビデオショップ「Kim’s Video」。アレックス・ロス・ペリーが通い、コーエン兄弟が600ドルも延滞金を溜め込む名店である。ビデオに魅せられた男キム・ヨンマンがあらゆる手段でマニアックな映画を入手する。中には違法のものもあり、一時期FBIに目をつけられたこともあったが映画マニアの間で愛されていた。しかし、サブスクリプションサービスの台頭により遂に「Kim’s Video」は閉店してしまう。5万本近いビデオはどうなったのか?監督が調査を進めると、なぜかシチリア島の小さな村サレミにあるらしい。「Kim’s Video」の博物館のようなものを作り観光スポット化する計画があったとのこと。しかし、実際に行ってみると、あまりに杜撰な管理がされていた。ビデオが泣いている!と思った彼は、キム・ヨンマンを探し出し、現状をみてもらったり、この計画の当事者に会って何があったのかを取材する。そして、彼は思い立つ!「盗もう!」と。『アルゴ』をはじめとする犯罪映画を観て、サレミからVHSを奪還するミッションが幕を開けるのであった。

次々と映画に例えながら映画愛だけに身を任せ暴走していく語りの面白さに爆笑した。時折、怖い描写も多く、政治家の車についていくと仄暗い場所で突如車が停止する。「映画だったら殺される場所じゃん」と撤収したり、「この状況はどのスコセッシ映画だろう」と妄想したりする。思わず笑ってしまう場面だが、状況的には全く笑えない怖さがある。これがこの映画の魅力にもなっている。それにしても映画愛だけで、キム・ヨンマンを見つけ出し、一緒にサレミまで同行してしまう行動力には脱帽である。これは日本公開してほしい作品だ。
去年山形にて。

これをイタリア人(特に映画の舞台となったシチリアに住む人)はどのように観るのだろうか。ある意味イタリア人にとっての『コーヴ』という気もする。

映画狂とはまさにこのことで、映画を我が子のように愛し、それらを取り戻す復讐劇は、映画好きの端くれとして共感せざるを得ない。
ただ、あまりにも物語的に観れてしまうこの映画は、事の正しさすら撹乱してしまって、映画に絡め取られてしまう。
簡単に作り手の正義や彼の紡ぐ物語に没入できてしまうのは留保すべきことだとおもう。

マフィアと政治の癒着にまで話は発展していき、愛すべき違法ビデオの話がどんどん大きな事態となっていくスペクタクルは、これがドキュメンタリーであるということも相まって見もの。

思えばこの映画に合法的な正しさなんて微塵もないのだ。ビデオは違法にダビングされたものだし、作り手は海外で不法侵入やら盗撮やらを繰り返す。ビデオは半ば不法にアメリカへ持ち帰られ、両者は互いに互いの面倒ごとに目を瞑るかのように和解する。
だが、違法ビデオはその違法性ゆえに文化的価値のあるものとなり、その文化財を雑に保存したシチリアの行政には、映画を少しでも愛する人間なら怒り心頭に発することこの上ない。それを我が手に取り戻すプロセスは、映画人にとって自分たちの思い出を自分自身で取り戻すプロセスと同義なのだろう。だからこそ、作り手に同一化せざるを得なくなってしまう。それが正しいかどうかはともかくとして。
さなえ

さなえの感想・評価

5.0
おもしろすぎ