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FEAST -狂宴-のnetfilmsのレビュー・感想・評価

FEAST -狂宴-(2022年製作の映画)
3.6
 観終わってこれが『キナタイ マニラ・アンダーグラウンド』や『ローサは密告された』のフィリピンの巨匠ブリランテ・メンドーサ監督の作品とは俄かに信じがたいと感じたのが第一印象で、唖然としつつも果たしてこれは本当にブリランテ・メンドーサ監督の作品なのだろうかと何度も逡巡してしまう。冒頭、平凡で牧歌的な父子が乗る車中の風景が繰り広げられるわけだが、そこで息子は決定的な過ちを犯してしまう。フィリピンにも浸透するカトリック教徒の贖罪意識を描いた物語だが、モンタージュは極めて凡庸で、ことの次第を凡庸に見つめるしかない。息子が起こした死亡交通事故の罪を被り、刑務所に収監される裕福な家庭の父親がいる。法治国家でありながら日本のような監視国家ではないフィリピンの病巣は正直言って罪深い。やがて刑期を終えると、その帰還を祝う宴の準備が進められる。収監されている間、妻と息子は、協力して家族と家計を守り、亡くなった男の妻子を引き取り、贖罪意識からか使用人として面倒を見ていた。しかし、宴の日が近づくにつれ、後ろめたさと悲しみが再び湧き上がり、「失った者」と「失わせた者」の間の平穏は突如かき乱されていく。

 ブルジョワジーの家族と物言わぬ貧乏家庭との対比が真っ先にブニュエルやシャブロルの影響を感じさせるが、貧富の差による捻じれが決定的に裁判の結果に影響を及ぼす。その時点では『落下の解剖学』同様に「ポスト・トゥルース」時代の歪な前後関係や位相をあからさまに体現しながら物語は展開するが、土曜ワイド劇場や火曜サスペンス劇場を日々浴び続けた我々の体感としては物語の叙述が5,6倍遅い印象を受ける。この内容で104分は流石に長いのではないか。ブルジョワジー的な社会に秘かに忍び込み、とにかく美味い家庭料理を作る轢き殺された主人(イチローのそっくりさんのニッチローに似ている)の妻が素知らぬ顔で家族の中に潜り込み、チャンスを伺う。その時点ではフィリピンの従来の家族を重んじる社会システムの中に従属するかに見えて、反撥の気配だけがふつふつと漂う。『落下の解剖学』同様に今作もまた彼女がシロかクロかの判別は下さない。それゆえに我々観客の気持ちは掻き乱されるのだが、凡庸な物語の中に滔滔と社会の不条理を炙り出す。
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