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罪と悪のnetfilmsのレビュー・感想・評価

罪と悪(2024年製作の映画)
3.7
 「正義」という言葉は人により幅があるし、真実と事実も実の意味では違って来る。映画は20年前の少年時代の出来事と、大人になり、しがらみに塗れた青年期とを並行して描くのだが、私には春(高良健吾)がなぜ、朔(石田卓也)の罪を少年期に自分の罪だと話したかが最後までさっぱりわからなかった。かつて任侠映画というジャンルがあった。そこでは親分の言うことは絶対で、親分や義兄弟の身代わりに刑務所に行くことも珍しくなかった。然しながら任侠映画と『スタンド・バイ・ミー』のようなジュブナイルな少年の世界はまったく違う。春の実家は不慮の事故で姉が死んで以来、実の父親からの暴力に悩まされていた。ホステスの母親はそんな父の暴力を咎めることなく、醜い現実から逃げていた。然しながら春には青春の全てを賭けたサッカーがあり、同じチームには朔や双子の弟と晃との友情があり、決して絶望的な状況に置かれていたわけではない。

 その意味では監督で脚本もオリジナルで綴った齊藤勇起の物語そのものが「正義」と「悪」とのコントラストの為に身代わりに置いたという見方も出来るが、そもそもの着想の起点や動機の部分が弱い。そこまでして庇ったくせに再び娑婆に出て来ても晃(大東駿介)の帰還までは小さな町にいながら殆ど接点を持たないというのも妙と言えば妙で、狭い街で繰り広げられる3人+1の友情と破綻を描いた映画といえば聞こえは良いのだが、その時点ではクリント・イーストウッドの『ミスティック・リバー』と同じような道を辿ると言わざるを得なかったのだが、動機やクライマックス場面の祭りの描写の符号には流石に苦笑いを禁じ得ない。遺体が町の中心にある橋の下に無残に捨てられる事件が二度発生することで、ノワール・サスペンスに緩やかに雪崩れ込む展開は重厚で良いのだが、閉鎖的なムラ社会で起きたかつての出来事が決定的になる中段辺りの語り口が弱く、警察vsヤクザvs半グレの三つ巴のテーマもあまり抗力を発揮しているとは言い難い。例えば師匠の廣木隆一の『ノイズ』とも親和性があり、キャスティングから石井隆の『GONIN』への目配せも感じられるものの、高良健吾と大東駿介と石田卓也という3人の青年たちの魂のせっかくのアンサンブルが最期まで活きない。
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