ワンコ

かぞくのワンコのレビュー・感想・評価

かぞく(2023年製作の映画)
4.0
【一様ではない家族】

家族は社会の最小単位だと云うのは、その通りだと思うけれども、これを声高に言う人の本質は、大概、親の子に対するしつけや、親子関係というか上下関係を学ぶといった父権主義(パターナリズム)の考え方に基づいたものだ。

家族という考えを過度に押し付けるのは、場合によっては偽善的だし、一言に家族と言っても、個人の集合体であるからこそ、家族自体も多様で、親にしろ、子供にしろ、妻にしろ、夫にしろ、貧困や喪失感、疎外感や対立など苦悩は多いのが現実だ。

(以下ネタバレ)

借金取りから逃れるため夜逃げを余儀なくされる息子。
妻を亡くした喪失感から、子供に向き合うことが出来なくなった男。
求めるものが行き違う夫婦。
亡くした昔の恋人の影を追い求める夫。

ここに書いた背景のようなものは、僕の想像だが、この作品は、これも含めて心情など詳細を観る側の想像に委ねているのだと思う。

そして、それぞれ支えになってくれる人もいる。

友人や知人。
それでも慕ってくれる娘と義理の息子。
話し相手になってくれる女性。
母親。

結末も様々だ。
だが、おそらく再生に向かうであろうことを期待して、これからを祈りたくなる。

ヨーロッパの一部の国では、子供は社会の一員として、社会全体で見守るといった考え方を浸透させようとしているところもある。
閉鎖的になりがちで、場合によっては虐待やネグレクトなどリスクを内包する家族という単位を地域社会に溶け込む存在として、過度な内向きの家族主義から解放させ、暴力の低減に努力する動きがあると云うことだ。

ひいては、こうした動きは、過度な宗教や政治思想主義からも人々を解放させ、原理主義的な暴力の低減にもつながるかもしれないのだ。

この映画「かぞく」に描かれる家族像は様々だが、ごく一部を除いて、背景はほとんど描かれない。
前にも書いた通り、観る側の想像に委ねられているのだ。

そして、描かれるのは苦悩だ。
苦悩の理由も様々だが、気持ちが手に取るように分かって、辛さが身に染みるようなものもある。

生きている限り、予測のつかない問題や事故が起こったりすることはあるだろう。

この作品を観て、暗いとか、何を言いたいか分からないと簡単に片付けないで考えて欲しい気がする。

家族とは社会の最小単位だが、幸福な場合もあれば、自分たちだけで解決できない苦悩を抱えている人々もいるのだ。

ところで、僕の知っている典型的な父権主義の一家の父親は、仕事では、自分のやりたいことだけ優先的にやって、ほかは他人任せで、情報を共有して欲しいと後輩から言われても無視。こんな人とは仕事ができないと後輩が辞めると申し出ると、良いよと言い、逆に生き生きしている”社会の一員”としては、どう考えても失格者だ。息子は大学中退でニート、やっと仕事に就いたと思ったら、叔父さんの会社に頼み込んだ結果で、理由は楽そうだから。娘はそこそこ溺愛されて、アメリカとイギリスに語学留学させてもらって帰国しても、結局は無職。就活しても、語学留学はモラトリアムとしか捉えてもらえず、これをやりたいという仕事に対するフォーカスも信条なければ、専門性もないのが問題なのに、自分を受け入れてくれない企業が悪いという話になっているらしい。
この親にして、この子供達ありというとところなのかもしれないが、本人達の利己的行動には拍車がかかり、父権主義とは実は内向きで、家族が社会の最小単位と云う割に、本当は社会性に乏しいんじゃないかと感じてしまう。
ワンコ

ワンコ