ももいろりんご

Hereのももいろりんごのレビュー・感想・評価

Here(2023年製作の映画)
3.7
滋味深く、静かで美しい。
ちょっと舟を漕ぎそうになったけれど。
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ブリュッセルに住む建設労働者のシュテファンが、長期の休暇で故郷のルーマニアに帰ろうとしている。休暇じゃないのかも。アパートを引き払ってこのまま戻らないのかな。冷蔵庫の残り物でスープを作り配ってまわる。姉や友人たちにお別れの挨拶代わりに。
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シュテファンがスープを作って、配ってまわるのがかわいい。私にはない発想だったけど、日本なら煮ものを残りもので作って分けちゃえ、かな。
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もういつ帰ってもいい、そんなタイミングで、以前レストランで出会ったシュシュと再会。深い緑の森の中で、苔類の研究者である彼女は、足元に広がる苔の不思議な世界を見せてくれる。
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これと言ったエピソードはなく淡々系。
移民労働者のシュテファンと中国系ベルギー人シュシュが出会い、日常を分かち合っていく過程が静かに描かれる。
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ベルギーのバス・ドゥヴォス監督作品は初めて。
工事現場、都市の中の緑、雨、一つ一つのシーンが少し長め。ゆっくり余韻のあるカット。
バスに乗り込む男の労働者3人。このうちの1人が主人公のはず…はず……ん?あ、この人かな。みたいな、ババン!コイツが主人公だ!とは描かれず全てに控えめ。
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シュシュと出会うことで知る苔の世界。緑と光と水。パッと見、苔は一つの緑の集合体。それを拡大する。よく見ると小さな緑は独立していて多種多様。顕微鏡を覗き倍率を変えればさらに小さな細胞の集まりが見えてくる。見え方、見える世界が大きく変わる瞬間でした。
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シュテファンを演じる役者さん、シュテファン・ゴタさん。お名前はそのまま使われたのかしら?
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街の景色と顕微鏡で見る森のような苔の姿に何か共通するものを見る。生命力…穏やかで力強くて。シュテファンはこの後どうするのか、シュシュとの関係は?全く匂わせもないのだけれど、想像しちゃう。
ここまでか、というほどゆったりスロー。ご注意を😴