菩薩

Hereの菩薩のレビュー・感想・評価

Here(2023年製作の映画)
4.5
確かに『ゴースト・トロピック』に比べるといささかとっつきにくいのかもしれないが、どちらにも共通するのは監督ご自身の移民労働者に対する深く温かい眼差しと、マクロな視点で世界を見たうえでミクロに光る美しさを捉えることに対する執着ないし賛美なのだと思った。

地面に根を張り花を咲かせ次の世代に種を残す植物が栄える一方で、それより前に陸地に這い上がり今も尚空白を埋めるかの様に広がる蘚苔類はかなり直接的なメタファーとして機能していると思うし、上を見上げれば広葉樹が広がり美しき木漏れ日が指す様に、地面に目を凝らせば豊かなミクロコスモスが形成されている。

そのままでは腐らせる一方の野菜達も鍋で煮込んでしまえば美味しいスープへの早変わりし、豊かなコミュニケーションと細やかなアドバンテージを生み出すアイテムへと変化していく。シェアの重要性、他者への思いやり、脅迫的に自らの存在を規定するのではなく、今ただそこにありここにいる事実を緩やかに受け入れること、何より多少の足踏みを自分に許してやること。これはどうしても島国根性が蔓延り国を鎖すことによりアイデンティティを保持してきたと胸を張る我々にはなかなか到達出来ない思慮深さかもしれないし、周りを大国に囲まれたベルギーと言うお国柄、ブリュッセルと言う土地柄が成せる業かもしれないが、絵空事だなんだと言われてもこんな世界をこそ愛し生きていたいと思った。根無草でも美しく広がる苔の様に「ある」こと、そもそも大地は人間だけのものではない。
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