ビンさん

異人たちのビンさんのレビュー・感想・評価

異人たち(2023年製作の映画)
2.8
大林宣彦監督の『異人たちとの夏』(88)は好きな映画で、公開当時2回劇場へ観に行った。

当時は奈良から東京へ単身赴任して2年経った頃で、ホームシックになりつつも、東京の面白さがわかりだした頃でもあった。
主人公(風間杜夫)が死に別れた両親(片岡鶴太郎・秋吉久美子)と再会(つまり幽霊=異人)するという、故郷の両親に思いを馳せる身にはダイレクトに響いて来る内容だった。
そして、重要なアイテムとして登場するのが、現:東京メトロ銀座線。
映画の冒頭、主人公は取材で、東京マニアには有名な使用されていない新橋駅へ行く。
今も現存する、帝都に残された異空間である。
そして、主人公が両親の亡霊に会いに浅草へ行くのも銀座線なのだ。

大林監督作品だが、山田太一氏の脚本なので、フィルモグラフィーでいえば異質=異人なのかもしれないが、愛すべき映画である。

で、大林作品の、というよりも山田太一氏の脚本を元にイギリスのアンドリュー・ヘイ監督が映画化したのが本作『異人たち』。

メインとなる物語は大林版と同じだが、まったくの異質な作品になっていた。
というのも、主人公がゲイであり、同じマンションに住む住人(男性)と深い仲になっていくその描写に重きが置かれている。
で、息子がゲイだと知って動揺する亡霊の両親。
しかし、それを生前判ってやれなかった父親との邂逅のシークエンスは感動的であり、その後の展開も主人公と恋人との描写が中心となる。

大林版では主人公とマンションの住人で恋人となる名取裕子との顛末が描かれるが、まったく違った内容となっている。

いみじくも劇中、主人公が動揺する母親(の亡霊)に、いまは時代が違う(多様性重視の風潮を指す)と再三説得するように、LGBTQを扱った作品も多くなってきた。
本作においても、LGBTQも亡霊もひっくるめて「異人」という、ダブルネーミングなわけだ。

もちろん、そういう映画であってもいいのだが、やっぱり大林版に深く感銘を受けた身としては、本作は異質というか、まったくの別物である。
理解はできるが、いささか落胆したことは否めない。
主人公が両親の亡霊に会いに行くのに、本作でも列車が登場するが、大林版での銀座線から受ける距離感と、本作の特急列車?のようなものから受ける距離感も相当な開きがあるように見える。

再三書くが、『異人たちとの夏』とはまったくの別物だった。
ビンさん

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