たく

異人たちのたくのレビュー・感想・評価

異人たち(2023年製作の映画)
3.6
人生が停滞してた男が亡くなったはずの両親と再会する山田太一の原作小説を、「荒野にて」のアンドリュー・ヘイ監督が再映画化。昔に観て大号泣した大林宣彦版が自分にとって大切な作品なので、主に同作との違いを気にしながら観たんだけど、全体のプロットはほぼ同じな中で、名取裕子が演じた役が男性に変わっており、両親に言えなかったゲイのカミングアウトによって自分自身を受け入れるというのが最大の改変ポイントになってたのがまるで別作品の印象。肝心な両親との別れのシーンは物足りなかった。

寂しげなマンションで孤独な生活を送るシナリオライターのアダムの部屋に、マンションの隣人のハリーが突然訪れて一緒に酒を飲もうと誘うんだけど、アダムが断っちゃう。これはアダムがゲイであることから今まで恋愛に臆病だったということで、大林版より自然な展開に感じた。アダムが家にあった昔の写真に写ってる生家を見て、ふと生家を訪れてみようと出かけると、自分が12歳の頃に交通事故で亡くなったはずの両親に出会うという不思議な展開。ここは大林版の演芸場での父親との再会が素晴らし過ぎる演出だった。

大林版では両親が限りなく優しく息子を包み込み、息子が中毒みたく生家に通う足を止められなくなる心理が痛いほど分かる感じなんだけど、本作ではアダムが両親の生前に言えなかった自身のゲイをカミングアウトすることで、両親との関係がちょっとギクシャクするのが微妙。それでもアダムは両親のもとに通い続け、次第に夢と現実の区別がつかなくなって行くのが怖かった。霊界に取り憑かれた主人公が次第にやつれていく描写は本作には全くなく、アダムと両親との別れのシーンも両親がだんだん透明になっていく名残惜しさの演出がないのが物足りなかった。

大林版で救われなかったケイに対し、本作はちゃんとハリーが成仏してて、同じ原作でも印象が全く異なる仕上がりになってた。全編に亘る顔のアップの多用で人物の内面に迫る演出が印象的だったけど、大林版には遠く及ばず。このレビューは「生きる LIVING」を観て黒澤明と比べた時と同じで、なまじオリジナルの作品を知らない方が純粋に味わえるんだと思う。
たく

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