デッカード

デッドデッドデーモンズデデデデデストラクション 前章のデッカードのネタバレレビュー・内容・結末

3.5

このレビューはネタバレを含みます

原作未読で映画を観ました。
この映画、おそらく前編ということで後編に向けてのたくさんのナゾや伏線で構成されていたためだと思いますが、ドラマ的な盛り上がりには少し欠けたかなー?という印象を持ちました。
かなり感情的には熱を帯びるシーンがなかったわけではありませんが、既視感などが邪魔をしたこともあり、やはり本当の盛り上がりは後編なのだろうと思えてきました。
逆に言えば、後編を観なければちゃんとした評価はできない映画だとも思いました。

突如現れたUAPが当たり前に上空にいて、小型UAPを自衛隊が撃墜するという"非日常が日常"になっている世界観は、やはりポスト3.11の映画だなーと思いました。
なんとなく楽観的だった毎日はなくなり、いつ起こるかわからない災厄に漠然とした恐怖と不安を抱きながら日常を生きる女子高生たちの姿は、すべての日本に住む人たち(もしかしたら世界中の人たちも?)が持っている今の感覚だと思いました。

すべての人に共通した不安感だと言いましたが、とりわけこれから未来を生きていく若い人たちの希望を持てない不安感は、社会的な世相や背景などもあり切実なもののように思います。
私たちのような若い頃が楽天的な感覚だけだった世代から見ると、この映画で描かれている門出やおんたんたちの姿は若さにあふれて楽しそうですが、それゆえに痛々しくも感じられてしまいました。
しかし、理不尽で無慈悲な"非日常"を生きているからといって門出やおんたんが悲壮感で暗くなってはいなくて、やはり若い時代にしか経験できない友だちとの友情や思い出づくりを全力で楽しんでいる姿にはたくましさを感じました。
でもやっぱり実は無理をしているのかなー?

そんな描き方がされていた高校時代から突然真逆の"小学生時代"のダークサイドに転換するストーリーは、このアニメの大きなナゾの一つでした。
門出とおんたんの性格すら逆転し、禍々しい出来事が次々に起こっていくあのパート。
本当にあった過去なのか?
あるいはどちらかが現実でもう一つは虚構なのか?
パラレルワールドなのか?
完全に惑わされていますが、ここが後編で明かされていく重要な部分なのかな?と思ったりしました。

一方"侵略者"と呼ばれるUAPにいる生命体は見た目はかわいい子どものようですが、全く正体はわかりません。
飛来し3年も何の行動も起こしていないことで本当の意図はわかりませんが、劇中ではむしろ好意的にかわいそうな存在として描かれています。
この生命体のナゾも後編では解けるのだと思うと期待感が高まります。

あと気になったのは、徹底して大人を悪者として作り手が意識的に描いていることでした。
門出の母、UAPの生命体を殺戮していく自衛隊員、レーザー兵器を開発している会社の人たちなどへの嫌悪感はわかりやすい。
このアニメには間違いなく今ある世代間の分断が描かれているように思えました。
今の大人は、自分が言うのは変で自虐的かもしれませんが、若い人たちから見ると本当にだらしない人間にしか見えないのだと思えます。
ほとんどの大人は本当はそんなことはないんですが…

UAPの生命体と大人との世代間断絶を踏まえてですが、人間が"わからない他者"に対しては全く無慈悲になれる存在だということが、特に衝撃的なラストでは描かれています。
そして門出の行動も、始めは親切心からだったのに許せない大人たち(高校生もいましたが)に対しての無慈悲な行動へと変わっていきます。
この人間のダークサイドが後編でどんな展開を見せ完結するのかには青春ストーリーを超えたヒューマンドラマとして期待したいと思います。

声優陣ですが、門出役のYOASOBI幾田りらさんが初主演、おんたん役のあのちゃんが初声優チャレンジとは驚きでした。
声の親和性は高く、キャラクターが生き生きとしていて本当に合っていた。
ハードな展開も予想される後編も大いに期待しています。

先にも書きましたが、原作未読ですので後編のことは全くわかりません。
前・後編にしたことで、原作未読の鑑賞者はどうしても後編について個人の推測をしてしまいます。
後編にはその推測を超える予想外の結末、あるいは十分納得できる着地が求められることになりました。
前編でたくさんのナゾを残し時間を開けた分、後編と結末に求められるハードルは確実に高くなったと思います。
本当の感想は後編を観てからだと思いますが、鑑賞者の予想をしっかり超える展開と着地を期待していますので、今は「早く観せて!」と強く思っています。
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