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SaltburnのAPlaceInTheSunのレビュー・感想・評価

Saltburn(2023年製作の映画)
4.4

バリー・コーガンは、ネイティブ読みでは「バリー・キォーガン」という発音らしいですね。
、という話しを聞くと、子供のころに良く見たこのCMソングを思いだしてしまう。
「赤ちゃん夜泣きで困ったなぁ〜
 疳虫 乳吐き 弱ったなぁ〜
 ひやひや ひやの ひや、きおーがん」
漢字では樋屋の奇応丸と書く、薬のCMですが。
以前はバリー・睾丸だったのが今はバリー・奇応丸という漢字変換がなんか頭に浮かんで来ちゃうんです。

そんな事は置いといて、この「SALTBURN」の主人公、オリバーがハマり役でした。
実はこの役に当初、ティモシー・シャラメにオファーしようろしていたとかいう記事を見かけたんですが、いやいやいやバリー・コーガンで良かった、というか彼に宛て書きしたかのような脚本でした。あの粘着性と、それでいて開き直ったかのようなあっけらかんとした佇まい、そしてその後に来る得も言えぬユーモア性は彼にしか出せないのではないだろうか。バリー・コーガン大好きです。
ティモシー・シャラメならもっと耽美な世界を醸しだした全然別のものになったろう。

身分違い・階級違いの男同士の間の、友情・羨望・或いは性的愛情が入り乱れるお話し、非常に楽しかった。
超富裕層、貴族階級のフェリックスになんとか近づいて、取り入ろうとするオリバー。彼は中流の家庭、というかオックスフォード大に入学できている時点で(世界有数の名門というだけでなく、非常に学費が高いらしいので)裕福な家庭の生まれで、かつ暖かい家族が居ることが後に示されるんだけど、フェリックスに最下層の貧困家庭で苦労して入学したと嘘をつく。その辺りからオリバーのサイコ野郎ぶりが発揮され、最高なんですけど。「中流家庭で頑張って入学しましたぁ」じゃ弱いんですよね。芸人のエピソードトークにも近しいものがあると思うんだけど「超貧乏で、めちゃくちゃな家族でこんな苦労した」と強めのエピソードが欲しいから、弱者の立場を盗用する。そのあたりが面白い。

あと自分みたいに外国の事情にあまり詳しくない者としては、フェリックスの母親の友達 ()が「英国の堅苦しい気質に馴染めずアメリカに逃亡した」みたいな台詞を言うときの「英国の圧政と重税からノガレ新大陸にプロテスタント達が渡っていった時のように、ヨーロッパから自由を求めていく先としての場所としてのアメリカ」って未だにあるのかなぁとか感じて面白い。

アメリカで超富裕層を描くと今だとIT長者とかになっちゃうんだろうし、やっぱり貴族で広大な敷地に賢覧豪華なお城があるのはヨーロッパでしかあり得なく、貴族の末裔たちの生活の空虚さを滑稽に描いていて良い。
というか逆で、いまや残された土地と身の丈に合わない城を維持管理していくしかない、時代に取り残された貴族を描くために英国が舞台になっているんだなぁ、と。

エメラルド・フェネルのフィルモグラフィーとして見ても、鮮やかな色彩、キャッチーな絵づくりや編集、意外性のあるストーリーすべてが一級品で、それでいて男性の性加害問題を世に問題提起するメッセージ性がぶっ太く貫かれた前作「プロミシング・ヤング・ウーマン」から一風変わり、
メッセージ性は排して、俳優の演技や物語映画そのものの面白さに特化したような本作をぶち込んできた事に興奮する。
観た人ならわかる、バリーコーガンの全裸での作中の仕草や粘着室全開のシーン等はネットミーム化しバズるのも想定内むしろ狙ってるのか、ぐらいのキャッチーさと強度がある。
次作はどんな映画を放り込んでくるのか楽しみであります。
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