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アイアンクローのtakaoriのレビュー・感想・評価

アイアンクロー(2023年製作の映画)
4.0
2024年85本目
劇場33本目

実在のプロレスラー一家、フォン・エリック家の実話を元にした映画。プロレスに興味を持ったことがないので、楽しめるか不安もあったが、蓋を開けてみると映画の主題は機能不全に陥った家族のあり方であり、プロレスの知識はまったく必要なかった。良質なヒューマンドラマなので、見るか迷っている人にはぜひお勧めしたい。
プロレスファンの間で特にエリック家がよく知られているのは、兄弟の中で最初に死んでしまうデビッドが日本滞在中に亡くなったからだそうだ(史実なのでネタバレではないという前提で書く)。5人兄弟が次々と不幸な死を遂げ、ひとり残される主人公ケビンは「エリック家の呪い」と呼んで苦悩する。しかし、兄弟が不幸になる実際の原因は呪いではなく、明らかに両親、とりわけ父親の育て方にある。いわゆる「毒親」や「トキシック・マスキュリニティ(有害な男性性)」の問題を体現する存在であり、子どもを支配しようとするくせに都合が悪くなると「あなたたちで解決しなさい」と言って逃げるエリック兄弟の両親のクズっぷりには見ていて辟易する(それだけ演技が上手いということだ)。
暴力的な父と見て見ぬふりをする母親から植え付けられた「男らしさ」からいかに脱却するか、が映画の主題になる。他の兄弟はそれが出来ないまま「この世からの脱出」という不幸な結末を迎えるが、唯一生き残ったケビンにだけは最後に大きな救いが訪れる。このラストシーンはとても感動的で、思わずもらい泣きしてしまい、この映画を見てよかったと思った。
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