NaokiAburatani

アイアンクローのNaokiAburataniのレビュー・感想・評価

アイアンクロー(2023年製作の映画)
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哀しきマッチョな映画。

作中の時代は古いのに一切古臭く感じない今年ベスト級の名作だった。プロレスファンでなくても十二分に楽しめるはず。

呪いなんつーモンある訳ないんだが、あえてこの呪いの正体は何かと問われたら有害な家父長制だろう。

自分にとってフリッツ・フォン・エリックに関する前知識はとにかくアイアンクローが凄いということだけ。しかもその知識もキン肉マンの超人オリンピック ザ・ビッグファイト決勝前のキン肉真弓とハラボテ・マッスルのエキシビションマッチという茶番での一幕からのものだから、今作で次々起こる悲劇には、心底驚いたし心臓が苦しくなった。
しかし、フリッツ・フォン・エリックがあそこまで典型的なアメリカ親父だったとは‥自分の言うことは強制的に聞かせるくせに周りの声には聞く耳を持たねーとか、子供はてめーの人形じゃねーんだよ!と思わず身体中に力入れながら観てたもんだから観賞後に背中を痛めてしまった。まさか息子の給料の中抜きまでしてやがるとは‥久々だぜ、ここまでのクズ野郎は‥

良い意味でとても2時間の映画とは思えない位濃密な映画体験だった。
忘れてはならないのが肝心のプロレスシーン。こちらも素晴らしく、マットのむせ返る匂いすら感じられそうなキャンバス上の大迫力の闘いも見応えあり。
勿論スポーツ全般に言えることだが、ことプロレスという競技において限界を超えるということがいかに命懸けかがよく分かる。キングオブスポーツという表現も決して誇張表現ではないように思う。

アメリカがモスクワオリンピック不参加のニュース見てると今日のガザ地区の争いに続いてるんだから陰鬱だ。もしも、ケリーがオリンピックに参加できていれば、と残念でならない。

ザック・エフロンの絶妙な華のなさ演技も素晴らしい。演技だけでなく、エリック兄弟たちの身体作りも凄まじかった。
あの世なんてもんがあるかは知らないが、ケビンが幻視したように兄弟4人が安らかであることを祈らずにはいられない。

ケビンを縛り付けていたのも家族なら解放したのも家族というのが何とも皮肉だった。
呪いは転じて福となり、家族の良い面と悪い面が見事に描写されていた。
「誰でも泣いちゃうよ。」というごく当たり前のケビンの子達のセリフには思わず頷いてしまったし、自分も泣いた。
百万歩譲って親父の助言で唯一良かったのは、アイアンクローよろしく、パムをガッチリ掴んでいたことだろう。ラストのケビン一家大集合の写真がその答えだ。
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