ヨーク

フィスト・オブ・ザ・コンドルのヨークのレビュー・感想・評価

3.5
この『フィスト・オブ・ザ・コンドル』はタイトルを見た時点で(あ、観なきゃ…)となった作品でした。いやだって『フィスト・オブ・ザ・コンドル』だぜ? 観るだろそれは。あらすじを説明すると、インカ帝国の時代から続きコンキスタドールに滅ぼされた後も反逆し続けた者たちが使う拳法、それがコンドル拳。そのコンドル拳の奥義書を巡る継承者たちの戦いが始まる、っていうお話なんだぜ。こう言われたそんなの観るしかないの。面白いかつまんないかじゃなくて観るの。
ちなみに本作は新宿と渋谷の映画館でやってたんですよ。新宿と渋谷は俺が最もよく出かける場所なので上映してくれる場所としては最高。しかもランタイムも80分と短いのでこれはどっかの隙間に入れてハシゴ余裕だなって思ってたんですよ。折しも渋谷のヒューマントラストシネマでは日々コツコツと感想文を書いている(のに全然いいね! が付かない!)未体験ゾーンの映画たちを開催中なのでその合間に観ようと思っていたのだ。思っていたのだが、なんということでしょうか、なんと本作は一週間で打ち切られて見逃してしまったのでありました。いや最低でも2週はやると思うじゃん! 一週間とかイベント上映のレベルだろ! と憤慨していたのだが、調べてみると新宿と渋谷は終了したが本厚木の映画館ではまだやっているとのこと。しゃあないから行ってきましたよ。だって上でも書いたけど観なきゃいけない映画だからね、これ。
んで肝心の映画はどうだったかというと、最高だったね。わざわざ遠出してまで観た甲斐もあったもんだと胸を張って言える映画でしたよ。でも一応断っておくとB級とかC級では済まないような映画だからな、これ。同時期の上映なのになんでこれが未体験ゾーンの映画たちのラインナップに入ってないんだよ! と思ってしまうくらいアレな映画ではある。まぁそんなもんタイトルで分かれよっていうところではあるが…。ただまぁそこを飲み込んだ上で観ればめちゃくちゃ最高な映画でしたよ。お話は上記したように伝説の拳法の後継者にのみ渡される奥義が書かれた秘伝書を巡る戦い、というものなので日本人的には『北斗の拳』のノリというのが一番分かりやすいのではないだろうかと思う。
しかしまぁ凄い映画でしたね。映画の紹介としては非常に低予算だけど監督の情熱だけはあるカンフー映画、としか説明できないのだが、色々と凄い映画でしたよ。まず上でも書いたが本作はランタイム80分と短めな映画なんだけど、何と全9章という章立ての作品になっている。1章につき10分ない尺である。これはテレビアニメのAパートよりも短い尺だ。その構成が活きているのかというと、まぁ言うまでもないが全く活きてはいない。むしろ何でそんなに短く区切っていくのか理解に苦しむ。主人公の過去編として修業時代のエピソードがいくつか書かれるのだが、それだけで3~4章くらい使ってたからな。そこは過去編としてまとめた1章でいいだろ。
でもこの映画にそんなこと言っても仕方ないんですよ。そういうツッコミには何の意味もない映画だから。どういう映画かというと、本作では冒頭の方でコンドル拳を極めたはずの無敵の主人公の弱点が明かされるシーンがあるんですよ。それ自体はまぁいいじゃん。魅力的な主人公に意外な弱点があるというのはよくあるものだ。その方が人間味が増して感情移入しやすいとかそういうのもあるのだろう。本作の主人公の弱点は、ズバリ光である。別に吸血鬼的なアレではなくて単純に眩しい光が苦手なだけということらしいのだが、それが作中でどのように描かれるのかというと、劣勢になった敵が懐から手鏡を取り出して太陽光を反射させてチラチラとその光を主人公の顔に向けるとモノローグで「まずい…! 俺は強い光を直視すると頭がボーっとして何もできなくなる! 何故その弱点を奴が…!?」とか言うんですよ。そんな映画に80分で9章もいらないだろとか言えますか? アナタ。どうでもいいでしょ、そんなこと。
また、終盤でラスボスと思われる敵と崖を挟んで対峙するシーンがあるのだが、こんなもん絶対に両者が崖からジャンプしてそのまま飛び蹴りなどで空中戦を展開した後にそのままラストバトルに入る流れだと思うんだけど、何と二人は崖を挟んで睨み合った後にバイクに乗って近くの廃墟まで移動してから戦うのだ。じゃあさっきの崖何だったんだよ! と突っ込まざるを得ないが、そういう映画じゃないんだよ。そういう細かい(細かいか?)部分にツッコミを入れながら観るような映画じゃなくて、全てを受け入れながら観る映画なんですよ。何を受け入れるのか? それは監督やキャスト、及び他のスタッフたちの情熱です。本作は真面目に最高のカンフー映画を撮ろうとしているっていうのがビンビン感じられる映画なんですよね。予算の問題だったりそもそも監督に面白いアクション映画を撮る才能があるのかどうかという問題はあるのだが、それはそれとして本気で面白い映画を撮ろうとしているっていうのは観ていて分かるんですよ。
いくらへっぽこでも俺にはそんな映画を悪く言うことはできない。ぶっちゃ大して面白くはない(言ってる!)のだが、でも好きな映画でしたよ。大体が作中の拳法の名前が「コンドル拳」っていうだけでこんなの必見映画でしょ。コンドル拳の継承者を巡る戦いとか言われたら観ないという選択肢はないからな。
ちなみに『北斗の拳』よろしく本作でコンドル拳の継承者争いは兄弟の間で行われるのだが、それが双子という設定で主人公の一人二役で演じられるんですよ。それはまぁいいんだけど、なんか知らんが修行中で家を空けている主人公の家庭(主人公は妻と娘がいる)に弟が主人公としてやってきて、要は妻を寝取ってしまう的な展開があるのだが、主人公はその一部始終を遠くから見ているとかいう、おそらく継承者を争う兄と弟の間に因縁を作りたかったのだろうがあり得ねぇよそれ! としか言えないエピソードとかもある。それらの珍妙なエピソードが全部ギャグとしてではなくて本気のドラマとして描かれるのだから本作の凄まじさは分かるだろう。
最後に書いておくと俺が本作で一番絶句したのは第8章くらいの「脚なしの春」というエピソードなのだが。これはちょっと俺の文章力では伝えることができないので是非みなさんの目で観てください。凄かったから。でもそのエピソードでも本当に古き良きカンフー映画好きなんだろうなって思うよ。70年代とかのカンフー映画に影響を受けた『ドラゴンボール』とかでもあったけどさ、要は印象に残る修行シーンなんですよ「脚なしの春」ってのは。面白いかどうかはともかく、かつてのカンフー映画へのリスペクトは感じるし間違いなく印象には残るシーンではありましたよ。
そういう映画ですからね、もう絶対観た方がいいよ、これは。ちなみに俺が一番びっくりしたのは映画が始まって数秒後、タイトルロゴが画面に出たときに「前編」と書かれていたことでした。そうなんです。この映画はこれ1本では終わらずに後編に続くんです。
めちゃくちゃ観たいぜ、後編。めちゃくちゃ観たいけど日本で公開されるかはかなり微妙だから、みんな本作を観に行って少しでも興行収入に貢献しましょう。続編を待ってる俺のためにも観てくれ。軽々しくこのタイトルを口に出したくはないのだが、カンフー映画版の『ザ・ルーム』と言ってもいい作品だったので『ザ・ルーム』の名にピンとくる人は絶対観た方がいいよ。
ちなみに本作のスコアは『ザ・ルーム』と同じく技術的な評価ではなく俺が好きだからっていうだけの評価です。超面白かったし超好きな映画です。
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