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コンクリート・ユートピアのdeenityのレビュー・感想・評価

コンクリート・ユートピア(2021年製作の映画)
3.5
2024年元旦は震災に見舞われ、日本中が新年を祝う例年のムードではなく、不安と心配を抱えるスタートとなってしまいましたね。劇場入り口には被災者、被災地を見舞う貼り紙がされていました。特に本作は少なからずその影響を受けている作品であり、震災を想起させるような表現が含まれていることから延期等も十分考えられるような作品だったにも関わらず、当初の予定通り上映してくれたことへの感謝と共に、今年の劇場開きは本作にしました。

ソウルを襲った未曾有の大地震により辺り一帯の地形が崩壊する中、唯一無傷の状態で残されたコンクリート造りのマンションを舞台にした韓国映画です。
予めネタバレを含むのでご了承くださいね。

まあもろにディストピア物ですし、同じ韓国でと考えると『スノーピアサー』とかが設定としては近いのかもしれませんね。ソウルは大寒波に襲われてますし。正直ソウルを襲った、というのも恐らくあれだけ助けも何もないならば地球全体規模の震災なのであろうことは想像できますし、本作のテーマはそういう状況に置かれた時の人間の本質が根幹にあります。

そもそもそのマンション自体もカースト上位層が住むような所ではなく、いわゆる権力を持たない者たちが一転して住居というこの状況下で最も必要とされるものを持った場合、どう変わってしまうのか、というのが面白いところ。
早速彼らが取った行動というのが、居住者というコミュニティに属さない者たちの排除でした。今まで虐げられていた部分もあり、痛みがわかるにも関わらず、持っている利益を分け与えることはせず、分断を図る。さらには虐げていく。「ゴキブリ」と罵るくらいですからね。悲しい哉、人間の本質を突きつけられますよね。

また、それと同時に組織を維持するためのリーダーの選出。さらにはそのリーダーに選ばれたイ・ビョンホン演じる冴えない男・ヨンタクの変化。
まあ人間の醜さが顕著に出てましたよね。マンションという新たな社会の縮図が形成され、もちろん中には人間としての尊厳を保って匿ってあげる人もいて、それもまた真ではあるのですが、力を持った者たちの暴挙は止められないわけです。

パク・ソジュン演じるミンソンの立場とかも面白いですよね。妻であるミョンファを守りたいという思いが根底にはありながら、それを正義としていわゆる常識的には悪行でも働いてしまう様。また、信頼回復のために権力者への土下座とかその後の行動とか。
この状況下でも人間らしさを保つミョンファとの乖離も含めて見所の一つだと思います。

ただ、こういった作品っていろいろ描かれてきたと思うのですが、好きにはなれませんよね。まさに人の本質だとは思うのですが、好きになれるキャラクターがいないですからね。
それこそまさにヨンタクとかミンソンって人間らしいなと思えるからこそ、腹立たしくも嫌いになれないという感じなんですが、ミョンファの立ち位置ってまさに聖人であり、人として正しいのはわかっていても、状況をわかった上での行動とは思えなくて、それはそれで好きにはなれないんですよね。
実際復興の目処もない、物資も限られている、自分たちの命の保証もない、そんな状況の中での決断って正直マンション住民の方が妥当だと思うんですよね。
映画のラストでも語っていましたが、あのマンションに住む人って人を食うって本当かと問われたことに対して、「いいえ、普通の人たちでした。」と答えたのはまさにその通りであり、ミョンファの側でありたいと思っても、そうあれないのが現実なような気がして。

だからこそ彼女が終盤で取った行動。彼を晒しあげる行為ってのは、結果的に正しかったのかってのは正直疑問で、やってること逆になっただけやん、って思えて仕方なかったです。
ま、自分がそっち側を貫けなかったためのひがみかもしれませんがね笑
何にしても本作で度々碁石が映されていましたが、白黒簡単に変わってしまうようなメタファーですよね。人間なんてそんなもんだな、と悲観的でなくサラッと見せてくれる見事な作品でした。
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