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コンクリート・ユートピアのドントのレビュー・感想・評価

コンクリート・ユートピア(2021年製作の映画)
4.1
 2023年。世界は! なんか地面がモリモリ盛り上がる大災害によって大変なことになった! しかし人類は生きていた! 災害後2ヵ月ほどの韓国で一棟だけ建ち残ったアパートを舞台に人心が荒廃していく様を描くアフターアポカリプス・ギスギス映画。
 たぶん政府とかが機能しなくなってる現状でどうにか支え合おうとしている序盤から、謎のオドオドおじさん(イ・ビョンホン)の代表就任、多数決、非住民(避難民)の排除……と加速的に人の、集団の心がすさんでいく。しかしこれがまた実に手際よくテンポよく笑いまで交えて進んでいくし、十分に、国や人種を問わず「ありそうな」流れとして描いていくのでまぁ見事。というか、「ある」ね、これは。どんな場所でも。おかげでこっちの心もパサパサに乾いていく。
 謎のオドオドおじさんだったイ・ビョンホンが多数決の理論や流血沙汰、食糧調達などでどんどん偉いおじさんになっていく、ある種のピカレスク映画とも観てとれる。とまれ主演は子供のない若い夫婦で、旦那はおじさんに心酔していき妻は疑念を抱え続けるという本筋はズレない。しかしやはり記憶に残るのはイ・ビョンホンの演技であろう。喜怒哀楽に虚無に狂気に慢心にハイパーカラオケタイムまで、人間の全面を見せる名演で、この人はすげぇなと思った。
 お話としてはちと長ったらしいキライもあれど、何故だか妙に暗くはないし湿っぽくもない。夢や希望や将来の展望がなさすぎて、協力もせずヨソモノを「あいつら人間の肉喰ってるらしいぜ……」と噂しあう始末。「あ~ぁ! 人類おしめぇよ!」という諦観に似たものが全体にある。
「ゾンビのいない『ゾンビ』」と書く人がいるけど、揉め方や作りなどはゾンビを避けて人々が地下に住まう『死霊のえじき』に近いかもしれない。どちらにせよ、要するにロメロですね。しかし『ゾンビ』にも似てそういう暗喩や風刺は全面に出ておらず、閉鎖地所で普通の人間が煮詰まっていく様子を描く娯楽映画として徹底されているあたりがものすごく強いと思うのであった。これはね、本邦のタイミングも悪かったけど、新年早々公開する映画ではないな! しかしその心意気やよし!!
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