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DOGMAN ドッグマンのnetfilmsのレビュー・感想・評価

DOGMAN ドッグマン(2023年製作の映画)
3.9
 もはや製作総指揮でクレジットされることが大半を占めるリュック・ベッソンの新作だが、その画面の汚さにまずは驚いた。もう何と言うか『フィフス・エレメント』の頃の映像の美しさよりも人生の苦悩が滲むような黒を基調とした汚物だらけの世界が拡がる。皮肉なことにアリ・アスターの新作『ボーはおそれている』とほとんど構造的には一緒だが、『ボーはおそれている』で遠隔操作されるのは主人公だが、今作は遠隔操作する側が主人公だという点が新しく感じる。とはいえ黒人のシングル・マザーの精神科医が変人の話を聞いて行く一連の流れはいわゆる「ハンニバル・レクター・メソッド」でさして新しさがなく、回想場面にケイレブ・ランドリー・ジョーンズの独白で綴られる叙述形式も退屈極まりない。哀れな男の虐げられ続けた人生はそれなりにヘヴィーなのだが、やはりジョーカーで既視感ありで、家族による虐待の描写もかなり使い古されているのではないか?幾らリュック・ベッソンとは言え、映像に対する反射神経や感性は日々衰えて行くようで少し寂しい。

 然しながら彼が一念発起してドラァグクイーンを目指す辺りからは全盛期の感覚を取り戻して行くというか、エディット・ピアフの焦燥感をケイレブ・ランドリー・ジョーンズが巧みに表現しており、Miles Davisの『So What』が流れる中でのワンちゃんたちの窃盗劇のアイデアにはかつてのリュック・ベッソンの雄姿がかすかに見える。例のマリリン・モンローの引用もベタと言えばベタだが相変わらずリュック・ベッソンはベタな曲をここにしかないというポイントに置くのが本当に巧い。思わず私は『LEON』のあの「Like a Virgin」を思い出した。大好きだった人にもこっぴどくフラれ、傷心の主人公に残ったのはシェークスピア劇の骨子だけだったというのが彼のその後の人生を決定づける。『DOGMAN』というタイトルながら、画面があまりにも汚過ぎて犬の毛色のカラーリングがほとんど見えないのは致命的で、ラストのアクションに登場するチカーノ・ギャングたちの見掛け倒しな脆弱さにはずっこけるが、老いてなお存在を示すリュック・ベッソンの健在ぶりが見えてひとまず安心した。
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