「ありがとうな、市子。」
衝撃の感謝の言葉に心がズタズタにされた。
プロポーズを受け、泣いて喜ぶヒロインが次の日に謎の失踪を遂げる不穏なオープニングはサスペンスの幕開けとして完璧な演出で始まる。
カメラは幸せそうなカップルを決してツーショットで映さず、どんなに幸せな愛の語らいをしようとも二人は断絶したカット割りによって同じ世界に立っていないことを示唆するこのプロポーズシーンは見事の1言。また、その後も同一フレームに人が二人以上収まるシーンは回想以外は殆どない。
如何にこの世界が断絶されているのか、それぞれの世界線が交わる時だけ人は向き合って喋る。
やがて市子の過去が暴き出されると、平凡な世界は如何に歪んでいたのか炙り出される。
狂っていたのは市子なのか、家族なのか、世の中なのか。
ラスト近くになって、市子は我々から離れ、遠くの存在になってしまう。それが、どうにも許せず、また彼氏など含めた市子の周りの人全てにも憤りを覚え、映画は観客さえも断絶して終わる。
人間らしさを求めて、人ではなくなるならば、それでも本当の人間らしさとは何なのか?最後に示して欲しかった。