ゆめちん

市子のゆめちんのレビュー・感想・評価

市子(2023年製作の映画)
4.5
市子
 
3年間一緒に暮らしてきた恋人の長谷川からプロポーズされた翌日、突如姿を消した市子。呆然とする長谷川の前に彼女を捜しているという刑事が現れ、彼に信じ難い事実を明かす。
 
失踪をきっかけに過去を辿りながら、市子がひた隠しにしてきた過酷な半生が、彼女に関わった人物を通して徐々に明らかになっていく。その時間軸を絶妙に操る構成と、直接的な描写を抑えた演出がよりミステリアスさを深め、観客を釘付けにする。
 
人生の中で最も幸せを感じるプロポーズの瞬間が、同時に悲しい別れの時となる市子の境遇があまりにも切ない。市子の母親が疲れきった表情で彼女に告げる "ありがとう" という言葉が心に刺さり複雑な気持ちになる。
そのようなシーンの連続を見せられることで、当たり前の日常がどんなに幸せで尊いものかを改めて教えてくれる。

杉咲花が複雑な感情を内に秘めた、難しい役柄を見事に演じ切る。特に妹とのシーンでの追い込まれた表情は圧巻。本作は彼女の心境を想像しながら観るのがやはりおすすめだが、観客に委ねられるラストはどう考えればいいか解釈が難しい。

上映館が少ないのがもったいない一本なので機会があれば是非。
 
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