Hara

市子のHaraのレビュー・感想・評価

市子(2023年製作の映画)
4.4
杉咲花を初めてすごいと思ったのは5年くらい前の大晦日に見たダウンタウンの「絶対笑ってはいけない」
突然スイッチが入る演技に大笑いしたと同時にビックリ。
それまではそんな意識した事もなかったが「こりゃすごい俳優かも」と印象に残った。

それから2年前の「恋です!」での白杖ガール。
強度の弱視と言う難役を自然に演じていてやっぱすごいんだと思った。

そして「市子」
そんな杉咲花がアップとなったポスター画を見た瞬間から観ると決めた映画。
かなりハードルを上げての鑑賞。


以下ネタバレも含みます。


単純に言えば連続殺人犯の逃亡劇。
「すべては生き抜くために」男を、拠り所を利用する。
貧困、DV、ヤングケアラー、無戸籍、セーフティネットからの転落、様々なそれこそ壮絶な生い立ちがあったにせよ、かなりの魔性の女の物語。

それを演じる杉咲花の凄み。
上げたハードルを楽々クリア。

小動物が本能のまま自分より弱い、あるいは隙を見せた強い相手を倒しながら生き抜いていく。
時には残酷になり時には全力で立ち向かい、そして時には狡猾に。
その笑顔や涙も、ケーキや花や花火が好きって事も本能のままだから全て真実。
そして過ぎて行った時間や出来事、関わった人は全て過去の事と置き去っていく。

そうしないと本能さえも潰されてしまいそうだった生い立ちゆえ。

だから長谷川が市子をどんなに追いかけても市子には過去への執着はない。
ラスト、夏の日差しの中を彷徨う様に歩く市子。
それはオープニングと重なる映像。
今からまた新しい市子、違う名前の市子が始まる。
次の拠り所を見つけながら。

と思える様な凄まじい杉咲花の演技でした。

エンドロールでの鼻歌と家族での楽しい会話。
穏やかな生活、それが市子が追い続けた、そしてこれからも追い続ける唯一のものなんだろうな。

日本アカデミー賞最優秀主演女優賞、杉咲花に一票!
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