回想シーンでご飯3杯いける

市子の回想シーンでご飯3杯いけるのレビュー・感想・評価

市子(2023年製作の映画)
4.5
「愛にイナズマ」の松岡茉優、「正欲」の新垣結衣、そして本作「市子」の杉咲花。今年は、社会からはみ出してしまった女性を描いた映画に良作が多く、各々主演女優が見事な演技を披露している。

杉咲花と言えば、キャリア初期の作品「トイレのピエタ」「湯を沸かすほどの熱い愛」で、かつての池脇千鶴に通じる、少女と大人が混在するような演技に圧倒されたのだが、その後は「テレビの人」という感じがして、暫く演技を観る機会が無かった。本作の杉咲は、その池脇が得意としていた関西弁を披露。東大阪の団地を舞台に、過去に秘密を抱える女性を演じている。

冒頭は、彼氏からプロポーズされた主人公が突然姿を消すシーンから始まる。本作の主人公である市子は、精神的な意味ではなく、社会制度に於いて「はみ出してしまった」女性である。その事もあって、サスペンス的な要素を取り入れ、時系列を巧みに行き来しながら物語が進行する。警察や福祉の存在も嫌味が無い程度に描かれるので、物語に説得力があるのも良い。

杉咲は勿論なのだが、本作での若葉竜也も、今までにない芯の強い人物像を演じ、強い印象を心に残す。結局のところ、終盤は彼の演技が作品の主軸になっていたといっても過言ではない。

結末をにおわせつつ、その全てを描写しないラストシーンも秀逸だ。今年観た邦画の中でトップクラスの作品である。