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トルテュ島の遭難者たち 4Kレストアのnetfilmsのレビュー・感想・評価

4.1
 いやぁ今回のジャック・ロジエ映画祭は本当に楽しみで楽しみで仕方ない映画少年に戻ったような状態でユーロスペースの初日を迎えたわけだが、一番楽しみだったのは代表作『アデュー・フィリピーヌ』や異端の傑作『メーヌ・オセアン』よりもやはり今作だった。というのもNaná Vasconcelosという大好きな打楽器奏者がロジエ直々のご指名で俳優として出演していること。そして歌手のPierre Barouhがチョイ役で出演していることを前知識として入れていたからで、うっかり仏語のクライテリオン盤で観てしまおうかと何度も考えていたのだが、今回の機会まで待っていて本当に良かった。Naná Vasconcelosの出番は案外大きく、打楽器や美声を披露したかと思えば、いかにもな掛け声で未開の地の動物たちと接したり、思いの外やりたい放題である。開巻早々、いきなり出て来た黒人の恋人のポスターと胞子の点滅の心底とち狂ったわけわからなさには天才ジャック・ロジエの手癖が滲み、「うわっ」と声に出してしまった。パリの旅行代理店の従業員、ジャン・アルチュール・ボナヴァントゥラ(ピエール・リシャール)と同僚のグロ・ノノ・デュポワリエ(モーリス・リッシュ)は同僚で親友同士で、夏のヴァカンスの時期の観光客の滞在のために、あっと驚くような予想外のプロジェクトをぶち上げる。今作を観光映画とするかコメディ映画とするかは極めて難しい。というか今作ほど行き当たりばったり感を感じさせる作品は早々ないのではないか?

 ジャック・ロジエが今作でぶち上げるのは、ロード・ムーヴィーの型をあらかじめ決めないことに尽きる。普通は映画の脚本にする場合、どこからどこまでどのルートを行き、途中どんな場所に寄り、どんな物語にするかは絶対に決めるはずだ。じゃないと撮れ高は期待出来ない。あなたが小旅行に出掛けるとして、行き先を厳密に決めるかそれとも行き当たりばったりの旅にするかはあなた次第だが、映画で行き当たりばったりの旅を選択するのはあまりにもリスクがあり過ぎる。しかしジャック・ロジエは今作で果敢にそれを試みる。「ロビンソン・クルーソー」の旅と題されたこの度はどこまでもスカスカだ。地図もGoogleアプリもない時代に先住民たちと触れ合い、人類未開の地へ嬉々として分け入ったロビンソン・クルーソーの名を冠したこの旅行プログラムには、何時にどこに着き、何時に何をするのかすら具体的な情報は書かれていない。それどころかチラシに書かれたトルテュ島なる島にすら辿り着かないのだ。映画はゼロから物語を紡ごうと、既に人が分け入った島を躊躇なく消して行く。親友で同僚のグロ・ノノ自体もイミテーションで、通称リトル・ノノとされた真っ赤な偽物というか弟のベルナール・デュポワリエ(ジャック・ヴィルレ)が帯同するだけ。捏造女は実際に同社に存在した一方で、ボナヴァントゥラの不安は一向に消えない。今となってみれば当時のロジエにあらかじめ完成形の絵が見えていたとは考え難い。性欲を逸らそうと天井を仰ぎ見るボナヴァントゥラの描写は『キング・オブ・コメディ』よりも6年早かったことを言わずにはおれぬ。然しながら146分という時間は流石に長く、30分削れば真の傑作だったに違いない。
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