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サンタクロースの眼は青い 4Kデジタルリマスター版のnetfilmsのレビュー・感想・評価

4.2
 空気も凍てつくようなクリスマス・シーズンの仏南西部ナルボンヌ。いつになったらダッフル・コートが買えるのかというジャン゠ピエール・レオー(ダニエル)の独白により幕が開く物語は、モラトリアムな時代の鬱屈したリビドーを体現するような物語である。バイトをすればすぐにクビになり、協調性もないダニエルの周りにはハッピーな出来事が何一つない。ナルボンヌとはジャン・ユスターシュが幼少時代を過ごした場所であり、今回のラインナップでは『ママと娼婦』と『わるい仲間』がパリを舞台とし、『ぼくの小さな恋人たち』と今作はナルボンヌを舞台とする。その意味では自伝的三部作の流れは『ぼくの小さな恋人たち』~『サンタクロースの眼は青い』、そして『ママと娼婦』というのが正しい順番なのだろう。今作はゴダールが『男性・女性』撮影時の未使用フィルムを使って作られ、製作資金を一部援助するなど、『わるい仲間』におけるエリック・ロメールの協力と同様にヌーヴェルヴァーグ勢の期待を一手に受けた。今回の自伝的三部作に共通するのは思春期の微妙なほろ苦さ、女にモテない自分自身への絶望とがヴォイスオーヴァーを多用しながら永遠であるがごとくずっと続く。人間なら誰しも感じるだろう仄暗さと人生の絶望とが絶妙な感覚で切り取られる。

 デュマ(ジェラール・ジメルマン)くらいしか友達のいないダニエルだったが然しながら酒場で偶然にもおいしいバイトにありつく。翌日、写真家(ルネ・ジルソン)の家を訪ねたダニエルのアルバイトというのは、サンタクロースの格好をして街角に立ち、通行人たちと一緒に写真を撮ることだった。サンタクロースの赤い帽子に白いひげを蓄えた姿はダニエルの辛気臭い姿を隠すには打ってつけだし、若い女性たちは彼の格好など気にせず、無防備に身体を密着して来るわけだ。これに味を占めたダニエルはこれまで指を触れることすら出来なかった美人たちの柔らかい肌に触れて行く。触角は研ぎ澄まされ、天にも昇るような気持ちを味わうダニエルだが、その内にサンタクロースのダンディな雰囲気に魅せられた女性と暗がりで待ち合わせをする約束をする。何と言うか女性の方も何か勝手に想像し、何かを自分本位に夢想したわけだがその後の展開はダニエルにとっては心底悲劇で居た堪れないものとなる。何をやっても上手く行かない男は結局、何をしても失敗ばかりする。やがてあんなに欲しかった夢にまで見たダッフル・コートを手にした彼の期待は幻滅に変わる。映画館の前に立つダニエルの背景ではフランソワ・トリュフォーの『大人は判ってくれない』が上映されている。今作は『大人は判ってくれない』のジャン゠ピエール・レオーを主役に起用し、あの映画のどうしようもない絶望の延長線上をひた走る。だがそこにはもはや60年代初頭のヌーヴェルヴァーグの華やかな雰囲気はなく、まるでダニエルが着るダッフル・コートのように、ヌーヴェルヴァーグの後塵を拝する絶望だけが克明に記されている。
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