にく

紫の家の物語のにくのレビュー・感想・評価

紫の家の物語(2022年製作の映画)
4.5
A・ファーディル『紫の家の物語』(22)YIDFFコンペ。戦禍を逃れた、だがコロナ禍に見舞われているレバノン南部の「紫の家」。当作は家主たる女画家と隣家の少年の関係を起点に、当地周辺の過去と現在、現実と虚構を行きつ戻りつする。開幕から惜し気なく示される風景ショットは最早「彼岸」としてある。
 これはフィクションとドキュメンタリーの区別など端から無視した作品だ。女画家も少年も明らかに演技をしており、両者による会話も細かいカット割によって劇化される。スクリーンという大枠の中に、額縁、張キャンバス、テレビといった多数のフレームが導入されて、そこへ絵画的映画的引用がなされる。
 本来、死の影が色濃いはず土地を、女画家とその背後にいる監督が描き変えて(再フレーミングを試みて)いるといえば聞こえはいいだろうか。だが、若い女(監督の実生活上の妻)の生命力に大地の再生を託す老監督という構図が透けて見えている。ヌーヴェル・ヴァーグ的な作家の正直さではあるかもしれない。
 ただこの映画が、監督の妻の横顔(プロフィール)を執拗に追い続けていたのは確かで、それは偶然なるかな、本映画祭のポスター(女性のプロフィール)のデザインと共鳴し、ということは山形県の形がそこに重なり合うという、個人的には最も印象深い作品となりました。本作の猫の扱いについてはまたいつか。
 果たして、ヤマガタは何を見つめるのか。
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