ブルームーン男爵

ナポレオンのブルームーン男爵のレビュー・感想・評価

ナポレオン(2023年製作の映画)
3.8
本作は、リドリー・スコットがメガホンを取り、ホアキン・フェニックスがナポレオンを演じた伝記映画である。1789年のフランス革命から映画は始まり、ナポレオンの皇帝即位から、失脚と百日天下、晩年のセントヘレナ島への島流しまでを、ナポレオンの私生活を交えつつ描ている。

映像は美しく、音楽も格調高く、戦争のシーンなども見ごたえはあるし、なによりホアキン・フェニックスが名演。なかなか良作だったと思う。

ただ158分と長過ぎるし、おまけに歴史を単になぞっているような印象も受ける。本作は映画好きというより、歴史好きや世界史で大学受験する高校生にオススメしたいと思ってしまった。歴史好きの私は、この戦いってこうだったのかと歴史の復習がてら楽しめました。

ちなみに、ナポレオンとマリー・ルイーゼの間に生まれた念願の嫡男のナポレオン2世は、ナポレオン失脚後に、母の故郷のオーストリアに移るが、21歳で子供ないまま亡くなり、ナポレオンの直系子孫は絶えている;ただ愛人との間にもうけた私生児の血統は続ているようだ。ナポレオンの二番目の正妻マリー・ルイーゼは、ナポレオン失脚後にオーストリアに戻り、ウィーン会議でパルマの統治権が認められてパルマ女公となり、二度再婚し、56歳で亡くなった。

(蛇足)ナポレオンというと島出身の庶民の田舎者がフランス皇帝にまで成り上がるという下剋上と思われるが、ナポレオン・ボナパルトの家系は古い由緒ある貴族の血統で、お父さんは判事でイタリア貴族だった(後にフランス側に転向しフランス貴族となっている)。

ナポレオンは兄弟姉妹が多くて成人した者だけで8人おり、兄のジョゼフはナポリ王・スペイン王、弟のルイはホラント王、末の弟ジェロームはヴェストファーレン王、妹のカロリーヌはナポリ王妃など各国の王侯になっている。ちなみに、フランスだと、王政復古で第二帝政となった際にナポレオン3世がフランス皇帝に即位しているが(パリを美しく改造したのは彼の功績)、こちらはナポレオンの弟のホラント王だったルイの息子である(ナポレオンからみると甥っ子)。普仏戦争に1870年にフランスは敗北し、第二帝政崩壊後のフランスは共和政になったため、ナポレオンの血筋がフランスにおける最後の君主であった。さらに蛇足をすると、ナポレオンの配下の将軍ジャン=バティスト・ベルナドット(フランスの平民の生まれで兵卒上がり)は、スウェーデンで国王になり、現在のスウェーデン王家まで血統が続きベルナドット朝となっている。

ほんとナポレオンって、本人は最後に失脚しているけど、欧州史において大きな変革をもたらした人物だったのだなぁと思う。