ゑぎ

番兵、気をつけろ!のゑぎのレビュー・感想・評価

番兵、気をつけろ!(1937年製作の映画)
3.5
 導入部、田舎の景色から、民家でのパーティ場面に入って行く画面の雰囲気は、グレミヨンだ。こゝは、ヒロインのカンデラスとジゴロっぽいアルトゥーロの出会いの場面。しかし、私は勘違いして、アルトゥーロのカノジョが主人公で、カンデラスは、脇役の女優かと思ってしまった。カノジョの具合が悪くなったシーンで暗転するのも思わせぶりだ(以降、この女優は出て来ない)。

 川で水浴びをするカンデラス。アルトゥーロが来て猛アタックし、倒れ込んでキスする。2人からパンとティルトアップして大きな木の仰角。葉や花のある木がディゾルブし、葉の落ちた木の仰角に転換して年月の経過を表す。一年以上経ったようで、カンデラスは、嬰児を抱えている。叔母さんの家を追い出されたと云う。この時間経過の作劇はブニュエルっぽい。子供の父親アルトゥーロは姿をくらましている。

 続いて軍が駐屯している町のシーン。こゝからがメインのプロットだ。隊内で靴磨きをするティブルシオのコメディパート。兵隊仲間のアンへリーリョがティブルシオにあれこれ命令する(水汲みや上官の脛当ての手入れなど)。また、カンデラスを捨てたアルトゥーロも近くに住んでおり、兵隊たちと交流がある。アンヘリーリョに唄ってくれと頼むアルトゥーロ。こゝで、突然ミュージカルになって吃驚した。アンヘリーリョ役の俳優は、多分スター歌手なのだろう。朗々と唄う。あるいは、兵隊たちとニワトリを絡ませたミュージカル場面もある。

 そして、カンデラスがアルトゥーロを捜して町にやって来る。しかし、アルトゥーロはまた逃げてしまう。同情したアンヘリーリョは、カンデラスの宿代のために、コンサートを開くのだが、この場面の彼は、本当に大スターみたいだ。カメラ目線アップで歌唱を披露する。この時点で、本作はカンデラスとアンヘリーリョの2人が主人公だと感得する。

 また時間が経過して大都市のアパートと路地の大俯瞰が繋がれる。カンデラスとアンヘリーリョとティブルシオは3人で靴磨きと雑貨の店をやっている。相変わらずティブルシオが靴磨き。彼が女性の綺麗な脚にドキドキする画面は、ブニュエルの脚フェチか。レジ係は、5歳ぐらいの娘。もちろんカンデラスの子供だ。こゝに、アルトゥーロが訪ねて来る。娘に合わせろ。多分、金目当てでやってきたのだが、アンヘリーリョは、カンデラスの部屋にアルトゥーロがいるのを見て、寄りを戻したと勘違いして出て行ってしまう。この辺りの作劇は、短絡的過ぎると思う。

 終盤は、アルトゥーロの真意を探るため、ティブルシオが探偵になる、といったコメディパートを挿み、アンヘリーリョとアルトゥーロの対決シーンや、店の火災シーンでスリルも盛り上げた上で、アンヘリーリョのコンサートで収束する。とにかくアンヘリーリョの心変わりの作劇はいい加減に感じられるが、この屈託のなさはブニュエルらしさにも思えて来る。全体に、グレミヨンらしさは、序盤にしか感じられなかった。尚、街中の建物の火災シーンは、とても迫力のある造型だったことは特記しておきたい。
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