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さよなら ほやマンのnetfilmsのレビュー・感想・評価

さよなら ほやマン(2023年製作の映画)
4.0
 豊かな海に囲まれた美しい島で、一人前の漁師を目指すアキラ(アフロ)は、「ほや」を獲るのが夏の間の仕事だ。船に乗ることが出来ずにいる弟のシゲル(黒崎煌代)と 2 人、島の人々の助けを借り、なんとか暮らしてきた。だが、今も行方不明の両親と莫大な借金で、人生の大ピンチに直面している。知らなかったのだが、ほやは卵で生まれ、おたまじゃくしのように泳ぎ回り、住む場所が決まった途端に背骨と脳が消滅するという。今作の兄弟の姿は「ほや」のメタファーにも見えて来る。そんな折、都会からふらりと島に流れ着いた漫画家の美晴(呉城久美)が兄弟の前に現れた。「この家、私に売ってくれない?」という彼女の言葉はアキラにとっては願ったり叶ったりなのだが、とりあえず頭金50万円を受け取り、3人の奇妙な共同生活が始まる。映画初出演のMOROHAのMCアフロの演技も不器用だが、監督の庄司輝秋の演出も誤解を恐れずに言えば随分と不器用でたどたどしい。松金よね子や津田寛治の登場シーンは安定しているが、このトライアングルのやりとりは不器用で観ていられない気さえする。然しながらこれ以上ない人生の挫折を経験した3人のどん底ぶりが妙に痛々しい。

 さながら和製『ギルバート・グレイプ』のような物語は、人生の落伍者たる3人の運命を大きく変えて行く。そこには震災の記憶が常に頭をもたげる。3.11の時、父母は兄弟に高台に逃げろとだけ言った。それが幸せな家族の運命を引き裂いて行く。その日からアキラもシゲルも互いだけを信じて12年半、下唇を嚙んで必死に生きて来た。そこに東京から都落ちして来たかつての有名漫画家が第二の津波のように兄弟の絆を揺るがして行く。挨拶も出来なければ口の利き方も知らない。弟のシゲルをアシスタントとしてこき使う女は最初、鼻持ちならない嫌な奴にしか見えない。ここではないどこかを夢見るアキラはいつか石巻辺りで一旗揚げようと目論むが、まだ漁師としては半人前で、いつも父の弟(津田寛治)にどやされている。YOUTUBEへのアップロード場面を使用した予告編の脱力感しかない編集には疑問を持ったが、本編はヘタクソだがヘタクソなりにとにかく一生懸命に頑張っている。主演も客演も監督すらもひたすら前のめりで、技術はないが魂ははっきりと見える。途中までは、おちゃらけた映画だと思わせ、油断させておいて中盤以降は力業で畳み掛けて来る。だがその強引な力業に大いに魅了されたのも事実で、画面から役者の気迫が確かに伝わって来る。その熱量は嫌いではない。
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