Mikiyoshi1986

パラダイスの夕暮れのMikiyoshi1986のレビュー・感想・評価

パラダイスの夕暮れ(1986年製作の映画)
4.1
今日は1995年7月13日に急逝したマッティ・ペロンパーの命日。生きていれば今年で65歳です。

カウリスマキ作品の常連俳優としてデビュー作からその異様な存在感を発揮し、絶妙な空気を醸し出す彼の演技はもはや欠くことのできない愛すべき名キャラクターとして、今もなお絶大な人気を誇っているペロンパー。

本作はカウリスマキが以来一貫して描いているブルジョワ不信・プロレタリアートの雛型であり、
フィンランドの劇的な経済発展に取り残されてしまった弱者へスポットが当てられた変則メロドラマです。
賃金労働者の倹しく生きる姿、コミカルで人情味ある友人、そして不器用で愛しい恋の行方が人間本来の誠実さを描き出します。

これがカティ・オウティネンのデビュー作でもあって、なかなか若々しい。(けどこれで25歳はかなり老けてます)

それとBlu-ray版の美しさね!昔のトータルカウリスマキDVD版とは画質から画面サイズから、何もかもが飛躍的に向上していて素晴らしいの一言。

また本作はペレストロイカによってソ連が崩壊へと向かっている1986年に公開されており、
当時ソ連領だったエストニアのタリンへ向けて出港するソビエト客船、そしてフィンランドの街並みなど、ある種の淡いノスタルジーを感じさせます。

戦後ソ連の実質的な属国化で所謂「フィンランド化」の元、共産主義と資本主義の軋轢を身をもって体験してきたカウリスマキ。
カウリスマキ作品に漂う独特な心寂しさには、そういう時代を生きた監督の感じる「不和」が根底にあるのだと思います。

それを見事、演技によって具現し得たのが他でもないペロンパー。
彼はカウリスマキの一番の代弁者であり、我々に強烈なインパクトを残した偉大な表現者であったわけですね。
Mikiyoshi1986

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