ブルームーン男爵

ジャンヌ・デュ・バリー 国王最期の愛人のブルームーン男爵のレビュー・感想・評価

4.0
フランス映画よろしく上品な映画でした。主人公は、デュ・バリー夫人で、フランス王ルイ15世の公妾(国王の公的な愛人。ポンパドゥール夫人もルイ15世の公娼で有名。)だった人物である。

デュ・バリー夫人は私生児として生まれ、娼婦(といっても富裕層相手の高級娼婦で「クルチザンヌ」という)のような生活を送るが、貴族の手引きで国王に見初められ、ついには国王の公妾へと上り詰めた女性である。このデュ・バリー夫人の人生を追いつつも、うまく脚色を取り込みエンターテインメントとして成立していて、興味深く観れた。

衣装はシャネルがデザインし、撮影もヴェルサイユ宮殿で行われており、優雅だ。絶対王政下の豪華絢爛な宮廷を、モダンに再現している。当時の宮廷の様子に着目してみるのも興味深いだろう。ルイ15世をジョニー・デップが演じているが、初の全編フランス語での出演。主人公ジャンヌ・デュ・バリー役はマイウェンだが、監督・脚本・製作も兼任している。

ちなみに、劇中に出てくる長身イケメンの王太子は、国王ルイ15世の”孫”であり、劇中でも国王ルイ15世を「祖父」と呼んでいる。「あれ?ルイ15世の子供で、王太子のお父さんは?」と思うかもしれないが、ルイ15世の息子で、ルイ16世(劇中では王太子)のお父さんのルイ・フェルディナントは、子供は残したものの36歳の若さで亡くなっているのである。

劇中の王太子はマリー・アントワネットと結婚し、ルイ15世の崩御によりルイ16世として即位するが、フランス革命で処刑されている(マリー・アントワネットもギロチンの露と消えているが、アントワネットの息子のルイ・シャルル(名目上のルイ17世)も革命下における悲惨な虐待の末に10歳で病死。アントワネットの娘のマリー・テレーズは天寿を全うしたが夫との間に子供がなく、ルイ16世とアントワネットの血統は途絶えている。)。ちなみに、ルイ・フェルディナントの他の子ども(ルイ16世の兄弟)は革命を逃れ、ルイ18世やシャルル10世として国王になっていたりするなど、波乱万丈である。

本作の主人公のデュ・バリー夫人はルイ15世の崩御後は幽閉されるもその後、自由の身となり、貴族の愛人として生活し、フランス革命が勃発するイギリスに亡命するも難を逃れた。しかし、なぜか革命中にフランスに一時帰国してしまい、革命派に捕まり処刑されてしまった。

本作でも登場するルイ15世の意地悪な娘たちのヴィクトワールとアデライード(ソフィーは革命前に逝去)は、革命後は、マリー・アントワネットの姉ナポリ王妃マリア・カロリーナを頼りナポリへ逃れ、結局、未婚のままイタリアのトリエステで没した。

本作はフランス革命前の絶対王政が崩壊する前の優雅な時代を描写しているが、劇中に登場する人物のその後を考えると、非常に切なく見えてくる。歴史を知ったうえで観賞するとより興味深く観れるだろう。