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グランツーリスモのドントのレビュー・感想・評価

グランツーリスモ(2023年製作の映画)
3.5
 2023年。よかった。実際の車とレースをトレースしてリアルに作り込んだゲーム「グランツーリスモ」、そのプレイヤーの中から本物のカーレーサーを選んで育て上げんというプロジェクトで抜擢された青年と、夢を諦めた元レーサー現コーチの挑戦を描く実話映画。ゲーム未プレイ。
 久しぶりに王道というか、ベタなスポ根映画を浴びせられた。昨年、これと全く同じあらすじで『アライブフーン』という日本映画の力作があった。ちょっと内気なゲーマーが本物の車に乗ってレースに出て挫折を経ながら大活躍する。おなじ。頑固なコーチと優しい女と金満ライバル。おなじ。ゲーマー野郎なんかにカーレースができるか!→お前やるじゃねぇか~! おなじ。
 予算規模は違えどこちらは競争、あちらはドリフトを主軸に据えているので比べるのも一興であろう。面白いのは共に「一芸を極めた者なら、その互換たる代物も問題なくやれる。やれるでしょ?」という感覚でもって作ってあることだ。まぁこっちは実話なのだが。ゲームがeスポーツと呼ばれるようになって久しい。レースや格闘ゲームはもはやスポーツの領域なのである。アレだな、身体能力の高い桜木花道がバスケで伝説を残す、というのと相似だな、ウン。
 昨年の邦画と違うのはこちらがアメリカ映画であることだ。監督は南アの人だけど。シビアな競争とかビジネスのリアルな側面とかもちゃんと入っている。そして競争から脱落した者がラストに応援に来たり、「ビジネスが何だ!」と結果を曲げないあたり、カーレースついでに家族の溝まで埋まっちゃうあたり、スポ根でありつつ、こう、アメリカらしい話だなぁと思うのであった。最後は恋人とキッスなのも大変にアメリカンである。
 南アの人と書いたが監督はニール・ブロンカンプ。メカ的なものへの愛着が強い人であるが本作ではほぼ職人的な仕事に徹している。30秒くらい「車ってのはよォ……メカで……いいよなぁ……」というシーンはある。車の迫力は文句無しに素晴らしい。惜しむらくは紆余曲折がありつつも終盤が盛り上がりにいささか欠けることで、これがもっと凄味あるクライマックスだったら日本人の観客もイェア!と叫んで全員アメリカ人になっていただろう。
 役者陣はみんな好演で、ともすれば手垢がついたモノになりそうなサクセスストーリーをひとつ上に押し上げていた。繊細な瞳の主人公や夢追う商売人オーランド・ブルームもナイスだったが、コーチで師匠のデヴィッド・ハーパーとお父さん役のジャイモン・フンスーが抜群であった。俺は頭の硬いおっさん(おばさん)が若いのに心を動かして友情が芽生えるみたいなのが好きなんだ。「お前、やるか?」「ああ──伝説を作ろうぜ」のあたりでは涙がちょちょ切れて仕方なかった。そういうのを観たい人には是非オススメです。
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