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コロニアの子供たちのnetfilmsのレビュー・感想・評価

コロニアの子供たち(2021年製作の映画)
3.8
 まさか日本から遠く離れたチリの地でこのようなあっと驚くようなタイムリーな事件がまさか起きているとは夢にも思わず、久々に映画を観て絶句してしまった。何と言うかげんなりしてしまった。1960年代初頭、元ナチス党員パウル・シェーファーがチリに設立した「コロニア・ディグニダ」(現在名:ビシャ・バビエラ)では、労働・秩序・清廉を規範とする美しい共同体が設立されたはずだった。然し乍らこのパウル・シェーファーという人物がかなりの曲者で、青年期にはヒトラーユーゲントの団員として知られた。第二次政界大戦には衛生兵として参戦した経験を持つパウルは戦後すぐに男児にイタズラした罪で逮捕されている。つまり彼のドイツからチリへの移住は表向きは大規模な入植活動にあたるが、実際は自身の性加害を隠匿するための移動に過ぎないのだ。神の名の下において、独裁者パウルのして来た所業はチリの人々にとってあまりにも酷く、人権無視な所業に他ならない。映画はその辺りのパウルの所業を明らかにはせず、専ら何も知らない少年たちの目線で語るからややぼんやりしてしまうのだが、ここで行われている行為の非道さは目に余る。常にオープンではなく、ブラックボックスの中に置かれるクローズドなコミュニティではしばしば、リーダーの歪んだ権力によって独裁的な支配を繰り返す。

 パウルの中ではあの頃のナチス・ドイツの世界線は今も終わってはいない。まさにあの頃のアドルフ・ヒトラーの冷酷無比な所業を、カルト的独裁者のパウルは戦後30年を経ても何度も繰り返す様が吐き気がするほどだ。ムラ社会的な閉鎖空間における洗脳の巧みなやり方とは大勢の面前でパワハラ気味に叱責し、神の名の下に粛清すればいとも簡単にカリスマ的な独裁者の強権には逆らえなくなる。人々は恐怖と洗脳を前にすればこうもあっさりとマインド・コントロールされる生き物なのである。70年代にピノチェト将軍率いるチリ軍がアジェンデ政権を倒すと、時の政権に阿り、武器の密輸にまで手を染めていく。政治的反対派を力で潰し、処刑を繰り返す段階まで来ると、これは国家ぐるみの政治結社ととられても何ら不思議ではない。自前で学校や病院を建て、300人もの住民を施設から絶対に出さないとするこの地獄のようなコミュニティでは、ある種ナチスのような酷い横暴が繰り広げられていたのだ。ここに閉じ込められた人々を詐欺の犠牲者として描いているかと思いきや、当時の空気では隣に住む人々の密告により処刑されるものも後を立たなかった。知らず知らずに洗脳された集団はパウルの手となり足となり、監視社会の自治を無意識で独裁者の所業をかえって助けてしまう。小児性愛者の被害者も当時の被害を押し黙り、彼を野放しにしてしまえば第二第三の被害者が生まれかね無い。その意味では当時被害者だった少年も無意識の加害者になり得るという現在の世界線は改めて深刻だが、ここに描かれたねじ伏せられた少年たちの瞳を忘れてはならない。グルーミングの場面とかあの出来事と比較すると妙にリアルで心からゾッとさせられた。全体的にルポルタージュの割には随分ぼんやりとした演出で、それは描かないのではなく、少年への性加害の部分は描けないわけで、今作だけでは全体像がなかなか把握出来ないのが難だが、掘れば掘るほどに本当に巧妙でしたたかな事件なのである。
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