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雨降って、ジ・エンド。のnetfilmsのレビュー・感想・評価

雨降って、ジ・エンド。(2020年製作の映画)
4.0
 ビクトル・エリセが31年ぶりならこちとら群青いろも17年ぶりの新作で、映画の流れに身を置く者ならば、2024年に舞い降りた奇跡を全力で受け止めるしかない。派遣バイトの日和(古川琴音)は、自分の写真をSNSに日々アップしながらローンで買ったCANONのカメラ片手にストリートを歩く。彼女はフォトグラファーを夢見ているのだ。職場の上司ムツミ(新恵みどり)のパワハラにうんざりしながらも、先輩の栗井(大下美歩)と密かに仕返しすることぐらいしかできず、彼女は何者かになりたい気持ちを持て余している。そんなある日、急な雷雨から逃れようと忍び込んだ店で、顔にピエロのようなメイクをした雨森(廣末哲万)と出会う。絶対に出会うことのない底辺の者同士が路地裏で出会ってしまうのがストリートの流儀で、思わずカメラを向けた彼の写真が思いがけずバズり、このチャンスに賭けようと一念発起した日和は、さらなる「いいね」を求めて街頭で風船を配るピエロ姿の雨森と再会する。

 俗世の凡人がバズり目的で被写体に迫るのだが、ここではボーイ・ミーツ・ガールの歪な変奏のような形が繰り広げられる。社畜の様な同僚(大下美歩)との細やかな犯行にも日常の狂気は宿るのだが、2人の出会いのバグ味そのものが狂気に映る。『東京リベンジャーズ』シリーズの作家として確固たるキャリアを築き乍らも、高橋泉はマイノリティの歪な形に警鐘を鳴らす。自分発でなくとも、誰かが警鐘を鳴らす世の中にならねばいけないという高橋泉の上映後の挨拶にも明らかだが、そのマイノリティへの眼差しの確かさは同週に公開となった三宅唱の『夜明けのすべて』とも同工異曲の様相を呈すのだが、性嗜好障害という名の聞き慣れない単語が、PMSやパニック障害とは別のベクトルを提示する危険を孕んでいる。高橋泉監督自身は性嗜好障害をフィーチャーした物語の帰着に対し真に受けるなと言うが、この世界は最初から残酷な矛盾を孕んでいる。古川琴音さんが今よりも童顔だと思ったら、これが映画デビュー作でコロナになる前の19歳に撮ったと聞いて納得した。
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