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落下の解剖学のazusaのレビュー・感想・評価

落下の解剖学(2023年製作の映画)
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相互理解の困難さ、脆さを炙り出している。多くの会話から少しずつ伺い知れる各々の感情やエゴ、それが他者からどう捉えられるか、食い違っていること自体を理解することの難しさ途方もなさ…結局人間はお互いを完全に理解するなど不可能なのだと改めて感じる。主題に関してはこのように思うし、サイドのダニエル、ヴァンサンの視点がこの主題に厚みを足す。サンドラは感情移入しやすい主人公とは言えないが、誰しもが自分に重なる部分を見つけられるのではないか。最終的な裁判の判決はともかく、サミュエルがどう思いながら生きてきて、あの日実際には何があったのか、それは誰にも分からない。分からないけれども社会的な決着のために彼らは裁判をする。それによって関係者は傷つき、サミュエルは一応の結論を押される。いやーこの救いの無さ、人間の相互理解の脆さ、観ているのが精神的に辛かった。でも数々の映画祭での脚本賞受賞は大いに頷ける繊細な機微の描写だった。主題としては重いけど、その表現はとても見応えがあった。相互理解の難しさを繊細に曖昧に描くという相反することを見事に成立させている。
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