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落下の解剖学のgreat兄やんのレビュー・感想・評価

落下の解剖学(2023年製作の映画)
3.7
【一言で言うと】
「崩落への”所以”」

[あらすじ]
人里離れた雪山の山荘で、視覚障がいをもつ11歳の少年が血を流して倒れていた父親を発見し、悲鳴を聞いた母親が救助を要請するが、父親はすでに息絶えていた。当初は転落死と思われたが、その死には不審な点も多く、前日に夫婦ゲンカをしていたことなどから、妻であるベストセラー作家のサンドラに夫殺しの疑いがかけられていく。息子に対して必死に自らの無罪を主張するサンドラだったが、事件の真相が明らかになっていくなかで、仲むつまじいと思われていた家族像とは裏腹の、夫婦のあいだに隠された秘密や嘘が露わになっていく...。

微量の”所以”が降り積もったが故に起こった一つの”死”。ある意味想像を遥かに超える展開に意表を突かれたが、今作を構成するサスペンスとヒューマンドラマの要素がまるで”検察官”と”弁護士”の拮抗のような緊張感として見事な均衡を保っていましたし、サスペンスのジャンルに慣れ親しんでいる者ほどこの顛末は”錯覚”に陥りやすい仕掛けになっていると思う。今作の評価が賛否両論なのもかなり納得ですし、個人的には消化不良感が残りつつも思慮深い上質な映画を堪能した後味が最後には残りましたね🤔

とにかくリアル。そして生々しい。”夫の不審死”というサスペンスでは到底隠し切れない程に夫婦における歪な”すれ違い”を静謐かつ強烈に描き切っており、その夫婦における秘密が裁判によって徐々に露呈していく様は、息子ダニエルの主観で見るとまさに静かなる地獄絵図。母親は無罪か有罪かという表面上の期待を大きく、そして厭な方向に捻じ曲がる母親と父親の秘密の”ネタバレ”には観ていて胸が締め付けられる思いでしたし、客観的に見ても泥沼な家庭環境のエグさに辟易とするのに、息子ダニエルの立場になって考えると…ゾッとしましたね😰

それに全編に渡りどこか河瀨直美作品のようなドキュメンタリータッチのテイストで描写されてる部分があり、警察の現場検証や裁判所での傍聴席から映したシーンでは時折POV的な主観ショットで映し出されているからか、妙に生々しいリアリティを感じながら展開に没頭していきましたし、それによってキャラクターへの感情移入という”雑味”が一切排除される機能として有していたのも非常に興味深く感じました。正直この描写が所以でFilmarksでの評価が割れてるのだろうな…とも感じましたが、ある意味意表を突くという点で見るとこの描写はかなり挑戦的な演出だったのではないかと思いますね🤔

とにかく父親はなぜ死んだのか?死因の真相を紐解くかと思いきやその”謎”はいつしか夫婦、そして家族における”深淵”へとシフトしていく、まさに家庭の闇は裁判の判決ごときで明確になるものではないという身近な”坩堝”を精巧かつ容赦なく描き出した一本でした。

152分という長尺の中で終始淡々とした曖昧さが染み渡っており、なぜこんな起伏の無い映画がパルムドールを獲ったのか…という理由が観終わった後に頭を巡りましたが、その時のカンヌ国際映画祭の審査員長があの『逆転のトライアングル』を産み出したリューベン・オストルンドだからという理由が多分ですがかなり濃厚かと思われますね笑。あの人こういう意地の悪い映画好きそうですから😅...

なので期待以上の大傑作!!という評価には至らないものの、一筋縄ではいかない展開の難儀さに興味がそそられまくりでしたし、母親サンドラを演じたザンドラ・ヒュラーの演技はまさに絶品そのもの。観る者の感情すら持っていかれる中盤の”慟哭”はまさしく彼女の独擅場でしたね...

【余談】
最後に私事ですが、この度就職を機に上京をいたしまして、これからは東京を起点に活動をしていく形となりました。ここ数ヶ月はまともに映画も観れないレベルの忙しさと不安が積もりに積もっていましたが、大学の卒業が決まり引っ越しも落ち着いたため今後はレビューの更新頻度を上げていこうかと思います。まぁ働き始めたらまた止まるかもしれませんが笑、それでも中学の頃から始めたFilmarksは遂に今年8年目を迎えた上に4年に渡った”大学生編”もいよいよ終盤。これからは”社会人(フリーター笑)・東京立志編”として新たな章が始まりますので、これまで長きに渡りフォローしてくださったフォロワーの皆様方、そして新たにフォローしていただいたフォロワーの皆様方含め、great兄やんのレビューに打ち切りはまだまだ先であるという宣言と共に、今後ともレビューの精度上げに精進して参ります!!