けんいち

落下の解剖学のけんいちのレビュー・感想・評価

落下の解剖学(2023年製作の映画)
3.6
この映画にはスリルとサスペンスが欠けているが、それは意図的なものです。
作り手は観客を即物的にハラハラドキドキさせる事に興味がない。

ミステリー仕立ての法廷劇に擬態したハードな家庭劇。
主人公の女性が小説家という設定だからって訳では無く、非常に文学的な内容で正直言って私には難しかったです😅

知性と教養を持ち合わせたカップルの歪な関係性が裁判の過程で炙り出されていく。
齟齬やすれ違い、エゴの衝突、空回りする野心、過去の栄光、メロドラマチックな道具立てを揃えながら映画はメロドラマ方面には進んでいかない。

生きることの困難さ、実存の苦しみを抉り出そうと作り手は試みているようです。

その試みを主演のザンドラ・ヒュラーが力尽くで成功させている。
この映画はザンドラ・ヒュラー劇場🎊なんですよね✨

本作でアカデミー賞主演女優賞にノミネートされている彼女の凄みのある芝居がこの映画を支えています。

高い知性と野心とプライドを裡に秘め、良きパートナーで良き母親でもあると自分を信じてきた主人公がひとつの事件をきっかけに酷い間違いを犯してきたことに気づく。しかしもう取り返しがつかない。

抑制された迫力のある演技が素晴らしいです🤩
5月に公開予定のやはりアカデミー賞ノミネート作品「関心領域」も楽しみですな。

しかし本作や「私がやりました」を観るとフランスの法廷ってなんだか楽しそう🎵