けんいち

美と殺戮のすべてのけんいちのレビュー・感想・評価

美と殺戮のすべて(2022年製作の映画)
4.0
ヘビー級の内容で観終わってぐったりしました。決して楽しい映画ではありませんが、それでも人間の勇敢さと、その勇気に社会が少しだけ応える様子にホッとさせられます🙂

アートシーンには疎いのですが邦題のインパクトに惹かれて観たかった作品。ようやく鑑賞しました✨

この映画はナン・ゴールディン自身の声が全編を充たす作品で、その声の強さに扇動されて最後まで興味深く観てしまった。

安全装置がぶっ壊れたジェットコースターに乗っかったような彼女の半生が彼女の言葉で語られていく。
宿命的に社会のマージナルへと流れ着き、異端的な共同体でストリートワイズを身に着け生き延びた。写真家としての自分の才能を発見し、それを愛し愉しみ磨いていった。
彼女は恐れ知らずの挑戦者であり賢く靭やかな反逆者でありいつの間にかワールドフェイマスな存在になっていた。

そんな筋金入りのパンクスである彼女が薬害を巡る市民活動家になる。出発点は私恨だ。

思えば彼女の写真家としての出発点もまた幼い頃に愛する姉とひき裂かれ永遠に奪われたことへの私恨が強く作用している。

医薬品によって酷い目に遭った。製薬会社に必ず報いを受けさせる!このシンプルな(そして映画的な!)感情の発露が、やがて同じように被害に遭い、愛する人を失った人々との連帯を深め、巨大企業と対峙する運動となっていく。
彼女は優れたアジテーターであり、自分の名声も巧みに利用する戦略家でもあるのだ。

正直言えば、アナーキーなアーティストの部分と市民活動家としての部分の描き込みが巧く噛み合っていない印象で、唐突に感じられたりもします。

しかし、私はこのエネルギーの塊のようなばあちゃんを知ることが出来てホントに良かった。彼女の人生と声に惹き込まれる120分でした✨