Omizu

メイ・ディセンバー ゆれる真実のOmizuのレビュー・感想・評価

4.5
【第81回ゴールデングローブ賞 コメディ・ミュージカル部門作品賞ノミネート】
『キャロル』トッド・ヘインズ監督の新作。カンヌ映画祭コンペに出品され、ゴールデングローブ賞では作品賞、主演女優賞(ナタリー・ポートマン)、助演男優賞(チャールズ・メルトン)、助演女優賞(ジュリアン・ムーア)の4部門にノミネートされた。

これは素晴らしかった。『キャロル』が人生ベストで偏愛しているトッド・ヘインズ監督の新作ということでかなり期待していたが、それを超えてくる傑作に仕上がっている。

アカデミー賞に向けてはBUZZが下降気味で候補入りは難しいかもしれない(どの部門も)が、少なくともジュリアン・ムーアだけは入ってほしい。欲を言えばチャールズ・メルトンも。

実際にあった事件を元にしており、映画のためにそのスキャンダルがあった年の離れた夫婦グレイシー(ジュリアン・ムーア)とジョー(チャールズ・メルトン)のもとに女優エリザベス(ナタリー・ポートマン)が訪れる。彼らに本当には何があったのか、彼らは心から愛し合っているのか、親子ほど年の離れた二人がどういう気持ちで夫婦として生きているのかを女優が探っていく。

いわゆるミステリー仕立てになっているものの、直接的な答えは結局分からないまま。余白を上手く残した非常に上手い演出。さすがトッド・ヘインズ。

ヘインズは往年のメロドラマ風演出が得意であるが、本作もクラシカルな音楽を含め一昔前のメロドラマのようなテイストで描かれている。

エリザベスは二人の関係を一応は分かったような気になるが、帰り際にグレイシーは全てを覆すようなある事実を告げる。ジュリアン・ムーアのあの表現!本当に素晴らしい俳優だ。彼女はアカデミー賞ノミネートされるべき。それくらいの名演をみせている。

ラストの「もう一度やらせて!」と言った後のポートマンの表情もいい。まるでグレイシーが乗り移ったような表情に一瞬なって終わる。

二人の女の同化という意味ではなるほどベルイマンの『ペルソナ』を引き合いに出すだけある。また、音楽の使い方はジョセフ・ロージー『恋』にインスパイアされているようだ。またこの音楽が素晴らしいんだ。

トッド・ヘインズならではのクラシカルな風格の漂う心理ドラマに魅せられる。主役の三人の演技合戦が本当に素晴らしい。ヘインズの世界で彼らが極上の演技を見せている。それだけでもう悶絶もの。

作品自体はアカデミー賞向きではないかもしれないが、この演技と演出力はもっと評価されるべき。不穏で適度に謎を残したミステリアスな傑作。さすがトッド・ヘインズ。
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