真一

PERFECT DAYSの真一のレビュー・感想・評価

PERFECT DAYS(2023年製作の映画)
3.2
ドイツ出身の監督が
脳内で美化した
異次元の日本…

これが、作品観賞後の
率直な感想です。
日本にのめり込んだ
小泉八雲が怪談で
「幻想の日本」を
表現したのに近いかなと
感じました。

舞台は東京。
トイレ清掃員の
平山(役所広司)は
毎日同じ時間に起き、
車を運転して
渋谷の公衆トイレに向かい、
仕事を終え、浅草の
地下トンネル内の
一杯飲み屋に寄り、
帰宅後は文学小説を
読んでから電灯を消す。

延々と続く日常。
廃屋のような木造アパート。
孤独。木々の緑。木漏れ日。
平山は、そんな人生に
満ち足りている。
ささやかな幸せを
感じているのだ。

「本当の豊かさとは何か」
「作品を観て考えてほしい」

こうした監督のメッセージは
明確です。清掃員の日々が
神々しいほど美しく
描かれています。

※以下、ネタバレ含みます。

本作品に感動した人は
多いでしょう。
評価点の高さが、それを
物語っています。
でも、自分は入り込めなかった。
こんな「貧しくて美しい世界」は
あり得ない、しょせんは
富裕層の身勝手な妄想だと
感じたからです。

マスクなしの清掃で
病気にならないのだろうか。

倒壊寸残の廃アパートを、
あんなにきれいに片付けて
快適な空間にすることが
できるのだろうか。

あの生活水準で、
将来不安も葛藤も感じずに
暮らせるのだろうか。

正直、現実離れしている
と思いました。

これだけは言えます。
この作品を観て、いくら
「清貧は素晴らしい!」
と感動しても、今の生活を
投げ捨てて平山のような
日々を送りたいと思う人は、
ほぼ皆無でしょう。

アフリカの難民キャンプで
逞しく生きる人々を観て
「なんと純粋な人たちなんだ」
「心が洗われました!」
と言っても、実際にそこに
入る人などいないように。

解決すべき貧困を美化すれば、
貧富の格差という構造問題から
目をそらすことになる
のではないか。そんな思いを
抱かせる一本でした。
作品としての完成度は高いです。
真一

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