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PERFECT DAYSのTのレビュー・感想・評価

PERFECT DAYS(2023年製作の映画)
4.0
カーオーディオにカセットテープ。背景にはスカイツリー。ETC車載器の音。平山はプレイヤーをわざわざつけたのだ。

毎日、同じルーティンを繰り返し、変わらない日々を過ごそうとする強い意志。しかしETCを使い、携帯電話を持ち、通い慣れたスナックはつい5、6年前にできた比較的新しいお店だ。最新型のトイレを掃除するために道具を自作するほど実は変化に対応している男。

変わってしまう。薄れる記憶。抗うようにカセットテープで録音を聞き、古本を読み、写真を撮って保管する。破く写真は忘れたい過去か、とるに足らない記憶か。

変わらない"フリ"をする男が、変化の圧力についに気持ちが決壊しそうになるラストに誰もがくらってしまう。

素晴らしい傑作だと思うと同時に、『ザ・キラー』のようなストイックになりきれない男の可笑しみもあるコメディとしても見た。

【ネタバレ注意】
決定的なネタバレはしませんし、この映画にネタバレなんてあんのかとも思いますが、ここから下はネタバレあるかもと思って読んでください。

追記1
コピーの「こんなふうに生きていけたなら」は、映画を見た人の代弁ではなくて、平山自身がそう願っている言葉だと僕は思いました。
でもそれはなかなか難しい。だから最後のあの表情。

追記2
あのETC車載器の音はクレジットカードが残っていることの警告音。つまり平山はクレジットカードを持っている人。ミニマムな生活をしているけど、変化には対応している男。

追記3
文字数を調節するために省略したけど、追記が始まってしまったからもういいやw
カセットテープ、古本、白黒のフィルムカメラ。平山の趣味は全て記録媒体。しかも古いメディア。Spotifyを知らないのはギャグとしてよりも、記録メディアの古さを強調する機能として使われています。「変わらない」のではなく「変わりたくないという意志の強さ」はこういうところからも感じますね。

追記4
整然とした2階。ニコにその場所を譲って平山が眠る1階はダンボールだらけで実は雑然としています。平山は単なるミニマリストではないし、「丁寧な暮らし」を続ける男というだけじゃない、「こんなふうに生きていけたら」と意識的に実践している男だと、こういうところからもわかりますね。

追記5
過去、ニコにフィルムカメラをプレゼントしていた平山。「変わらないでいてくれよ」という気持ちが込められていたのかもしれませんね。

追記6
ニコに2階を譲って平山が寝ることになる雑然とした1階。久しぶりのニコとの関わりによって、かつての生活が思い起こされる危機感を絵的に現しているのかもしれませんね。
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