リミナ

キリエのうたのリミナのレビュー・感想・評価

キリエのうた(2023年製作の映画)
3.7
あの日を境に崩れてしまった過去、取り戻そうとする現在が交錯する3時間の音楽映画。

序盤から過去と現在、複数人物の視点を同時並行で見せつつ、次第に出来事や関係性が繋がっていく構成。
それを知らない初見でもそこまで混乱せずに観られた。

音楽映画としてカバー曲からオリジナル曲まで20曲近く登場する。カバー曲には米津玄師「Lemon」や優里「ドライフラワー」、あいみょん「マリーゴールド」など実際に路上ライブでカバーされているような近年のヒットソングの選出が現代的。カバー曲にしろオリジナル曲にしろ、アイナ・ジ・エンド特有のハスキーボイスが路上ミュージシャンとして成功する説得力があった。道行く人たちが足を止めるのも納得できる(足を止めない人が映るのもそれはそれでリアリティがある)。
劇伴には過去の岩井俊二監督作品も担当してきた小林武史。メンバーであるYEN TOWN BAND「Swallowtail Butterfly 〜あいのうた〜」は過去にアイナ・ジ・エンドがカバーしていたこともあり、縁を感じる。
また、舞台が新宿駅南口や代々木公園付近と実際に路上ライブが行われる場所なのも、よりリアリティが増す。
その他、役者として七尾旅⼈や安藤裕子、大塚愛、粗品らが出演しているのも、音楽好きにはフックになる要素だった。

映像的にはハンディブレが路上ライブで観客がスマホで撮影しているように見えたのが良かった。シーンとしては雪や海をバックにしたキリエと逸子の2人が印象に残った。大自然×2人組にしかない画の良さがある。

物語はキリスト教の宗教観を取り入れつつ、3.11がきっかけとなった後悔・罪悪感を贖罪するもの。自然災害や血縁関係、金銭、ルールなど様々な要因が絡んだ無力さやどうしようもなさが生々しく描かれているのが胸を締め付ける。
そんな中でも幸福な時間があっても、音楽プロデューサーの「永遠には続かないよ。そういう時間は。」という台詞が現実に引き戻してくる。
それでも生きていく。

世間的に見れば"変わっている"とされるような人物がメインのため、感情移入できるかどうかが評価軸になっていると難色を示すかもしれないが、刺さる人には刺さるタイプの作品だと思う。
リミナ

リミナ