kyameru

首のkyameruのレビュー・感想・評価

(2023年製作の映画)
4.1
劇場でなかったら途中でやめていたかもしれない。だから見に行ってよかった。名作とは思わないけれど、興味深い作品だった。

僕のハイライトは荒川良々の緊迫した切腹とビートたけしら羽柴三人組のコント的な会話が混ざりあったシーンだった。日本では武士魂のような美学によって非合理的な選択をすることが美しいとする考え方がある。しかしそれは冗談のようなものだし無駄と言えば無駄で、そのような誰にもわからない美しさに固執することで廃れてきた文化や利用されてきた人たりがいる。だからそれらを茶化すことで、その美学を無化する。今の日本はある意味では真面目な人よりも茶化す人間の方が得をする世の中だと思う。映画の中であれ、真面目さだけでは無駄死にするということを考えさせる。だから最後の天皇の引用も意味が出た。

現実世界こそが笑えない暴力で溢れている昨今、最近のタランティーノ のイスラエル への対応など、本来残酷なテーマをポップに描くことでカウンター的なクールさを築き上げてきた人たちの実社会での行動を見るにつれ、 ”茶化す” 人たちを信用できなくなっている。だから、この作品をどう受け取るべきか悩みながら見ていた。

現実世界が笑えないからこそ、一種の諦め、もしくは祈りとして笑いが存在する、とも思う。美学に固執することの虚しさと同時に茶化すことの虚しさも感じる作品だった。映画内映画として美を追求できないことが、この監督の作家性だと思いました。
kyameru

kyameru