ブルームーン男爵

首のブルームーン男爵のレビュー・感想・評価

(2023年製作の映画)
3.9
「本能寺の変」を巡る各武将の動きを描いた作品。各場面に迫力があり、個人的には楽しめたが、R15指定ということもあって、かなり血なまぐさい。大河ドラマのようにカッコいい歴史物ではなく、戦国時代の生々しい現実を描写しようとしているので、好き嫌いは分かれるだろう。

やや幻想的な光源坊やら、あり得ない空中戦の描写などから示唆されるが、北野武のイマジネーションがかなり反映されており、このファンタジー要素をどう感じるかもかなり人それぞれだ。加えて言うと、北野武流の(ちょっと下品でドギツイ)ユーモアが解せないとつまらないと思われる。はまる人にははまるが、一般受けは難しい作品であるように感じられたが、個人的には大いに楽しめた。

それにしてもエンタメとして面白いのではあるが、登場人物が多く、またその関係性もやや複雑でわかりにくいところもあるので、ある程度、前後の歴史は復習していったほうがいいだろうと思う。ちなみに、織田信長に仕えている黒人の弥助(アフリカ出身)は実在の人物である(当時、ポルトガルが黒人を連れてきており、織田信長に気に入られ召し抱えられたそうだ)。

それにしても本作の主人公は織田信長でもなく、明智光秀でもなく、農民上がりの羽柴秀吉である。戦国時代は討ち取った「首」で、恩賞がもらえ、出世が決まるところがあり、侍になりたい農民上がりの茂助は滑稽なほどに「首」に執着している。明智光秀も織田信長の首を探し回る。一方で、その後、天下人となる羽柴秀吉は、「首」にどういう対応をとるかというと、最後のシーンがなかなか衝撃的だが、「死んでることが分かれば首なんてどうでもいいだよ」と首を蹴り飛ばすのだ。さらには農民上がりの羽柴秀吉は、切腹に向けて舞を踊り、辞世の句を読み、尊厳ある切腹をする城主をみて、「まだやらねーのか、とっとと死ね」と、武人の最期の散り様すら意に介さない。このブラックユーモアというか、冷笑主義(シノシズム)も好き嫌いが分かれるだろう。ただそんな羽柴秀吉は、冷徹に側近すら”後始末”を考えており、ニヒリズムなのではなく徹底的なリアリストであり、よく考えると、時折見せていたその冷徹さにゾッとする。

ちなみに、映画の登場人物のその後をいうと、(誰もが知っている通り)羽柴秀吉は天下統一し豊臣秀吉に名を変えている(しかし、豊臣氏は「大坂夏の陣」で滅亡している)。弟の秀長は、兄を献身的に支え政権の調整役としても活躍するが、子に男子がおらず、また後継者も若く亡くなったため家系は断絶。秀吉に近かった千利休は、秀吉から切腹を命じられ自害。もっとも繁栄したのは黒田官兵衛だろう。その後も勲功をあげ、家康より長子が移封され福岡藩主となっている(明治時代に華族制発足により侯爵となっている。現在でも血統は続いている)。弥助は「本能寺の変」の後は、記録がなくその後どうなったかは不明だそうだ。ちなみに、曽呂利新左衛門も実は落語家として実在したといわれているが、本作のような活躍は創作で、没年も諸説あり、はっきりとはわかっていない。