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私がやりましたのhasisiのレビュー・感想・評価

私がやりました(2023年製作の映画)
4.0
1930年代のフランス、パリ。
マドレーヌは売れない女優。友人で弁護士のポーリーヌと一緒に暮らしているが、家賃を5ヶ月間も滞納し、大家から催促されている。
そんなある日。知人の演劇プロデューサーが自宅で何者かに殺された、と訃報が入るが、その日はマドレーヌが彼の家を訪ねた日だった。

監督・脚本は、フランソワ・オゾン。
2023年に公開された犯罪コメディ映画です。

【主な登場人物】🗼🥖
[アンドレ]恋人。
[オデット]元人気女優。
[パルマレード]建築家。
[ブラン]警部。
[ポーリーヌ]相棒。
[ボナール]大手の社長。
[マドレーヌ]主人公。
[ラビュセ]判事。

【概要から感想へ】👔👗
オゾン監督は、1967年生まれ。フランス出身の男性。
90年代から活躍するベテランで、本作が長編23作目。
性愛、友情、風刺などがテーマとして扱われやすい。
映像や演者の美しさにこだわるのも特徴。

本作は、1934年の戯曲『Mon crime』がモチーフだとか。
その映画化である『真実の告白』(1937)
映画のリメイクである『Cross My Heart』(1946)
の名前も挙げている。

映画もファッションの流行と同じように巡っている。
弁護士を女性に変更して現代を反映しているが、
設定から、話の流れ。絵作りまで2作品の影響が強く、いま求められるテーマが流行していた時代が有ったのだと、よく分かった。

戯曲のようなマシンガントークで、今年レビューした前作『苦い涙』から作風は継続されている。

🔫〈序盤〉⌨️🗞️
スクリューボール・コメディ。
まだラブ・ロマンスと、ドタバタ劇が別れていた1930年代。
ラブストーリーを風刺した新ジャンルであり。
のちに、ロマンチック・コメディとして確立されてゆく。
当時の特徴としては、大人向けの二次創作的な出発点の影響で、フィルム・ノワールのようにクライムの色が濃い。

1930年代の美しいパリで、美女になって美男の相手をする。
女性が描くロマコメに登場する「優しくて中身のない男」を皮肉っている。
前作につづいて、甘いムードを破壊して笑いに変える遊び。
異様に喋るのはご愛敬。
わたしは大好物なので、そのまま恋愛してほしいジレンマはある。
会話劇だけど、移動が多く含まれるので絵変わりは頻繁。街の風景も綺麗だ。

🚔警察の取り調べ。
視点が切り変わるので、感情移入するのに時間がかかる。
台詞が途切れないので、ミステリー要素について思考する隙間もない。
(本当に、オナニー大好き監督)

主人公のマドレーヌをミステリアスにして、周囲の人がお喋り。
「犯人なのかどうか?」について話し合う。
なんだか『落下の解剖学』について語っている気分に。

お馬鹿な刑事ブランが、まっすぐに推理して観客をナビゲーションしてくれる。
事件は思いもよらぬ方向へ。

🔫〈中盤〉👨🏻‍⚖️🪻
法廷劇で傍聴席の気分が味わえる。
舞台の演目をモチーフにした強みであり、
男子が大好きなシスターフッド。
「これは素晴らしいフェミニズム映画」と男はいった。
なぜか女性側に感情移入し、感動させられる皮肉。
安全な場所から悲劇を楽しむ都合のよさを、当事者はどう感じるのだろうか。

眠くなるぎりぎり手前でちゃっちゃと次へ進む気遣い。
本当に華やか。こんなに気分のいい映画もない。
説得力のある来訪者の登場で終わりのはじまり。

🔫〈終盤〉🛋️🛀🏼
解決編。
なんだけど、新展開。
盛り上げて畳みに行くのが定石だが、短編のように新たに生じた問題の解決に奮闘する。
相変わらず置いてけぼりで、最後まで忙しない。

自分が作った上質な2幕さえも破壊して笑いに変える徹底ぶり。
頭を抱えるほどの乱暴さではあるが、男らしいとも言える。

最後は、スクリューさせまくっておいて、信じられないほど綺麗に収まる剛腕ぶり。
物語の面白さ、が生きていた時代の風情を漂わせる上質なコメディだった。

【映画を振り返って】📽️📰
オゾン監督が素晴らしい仕事をやり遂げている。
目まぐるしくて軽やか。それと眩しいほどの豪華さ。
ふだんは古典に触手が動かないわたしでも夢中になれる面白さがある。

🐼再現VTR。
推理や告白を白黒の映像で。
喋りに重ねて映像が流れるので、気持ちよく過去の出来事を想像できる。
まじめにやると怒られるので、コメディの強みが出ている。

👮🏻‍♂️警部ブラン。
影の主人公のような存在。
仕事をきちんとこなしてくれるので、退屈ではないし、面白い方だが。
とくに初回は、
マドレーヌと、ブランの視点切り替えが鬱陶しく、ストレスがかかる。

ロマンチックを盛り上げるためのギャップを作り出すのに必要なのは分かるが。
「月9」の隙間に「火曜サスペンス劇場」が入ってくるようでちょっと。
しかも、警部は橋爪功のような初老の男性なので、ムードも何もない。
(その例え古すぎて若い人だれも分からない)

💐古きよき二次創作。
現代のフランス映画の裏側を見せられているようで、映画の歴史を感じさせる深みも魅力。
当時の戯曲は、映像が残っていないので観ることはできないが、監督は友人の紹介で脚本を読んだらしい。

女性が国政選挙で参政権を獲得したのが1945年なので、それ以前の物語。
それゆえ、家父長制と戦う彼女たちの姿は輝いて見える。
いまの時代の思いを乗せても違和感がないなんて、世界は問題山積みではあるが、
少なくとも日本では、この頃よりはずっと自由を謳歌しているのは間違いないだろう。
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