ほとんど予備知識も期待もなく観たので、意外な秀作で驚きました。トム・ティクヴァ監督の傑作「ラン・ローラ・ラン」みたいな設定を予想しましたが、同一人物の4つの人生のパターンが同時進行するという奇抜な構成です。ところどころで、同一の次元や空間には存在しないはずの登場人物がニアミスしたかのように演出するところも面白いです。
主演のルー・ドゥ・ラージュは、4人のジュリアを演じわけていますが、単純な別人格の1人4役じゃなくて、同一人物がそれぞれの環境でパーソナリティを徐々に形成していく過程とか、その個性をわかりやすく演じているところが素晴らしいです。
4人のジュリアは、それぞれの人生の成功、挫折、落胆、悲哀、歓喜などを経験しますが、それがどのタイミングなのかは区々なのであって、ずっと最高潮であるはずもなければ、ずっとどん底にいるわけでもありません。誰の人生にも多少なりともそういう傾向があって、その境遇をポジティブに解釈できるかネガティブに捉えてしまうかによって、必然的に将来が決定するものなのでしょう。
誰しも人生の分岐点が日常的にいくつもあって、無意識に選択したり偶然に左右されたりのくり返しで毎日が成立しているはずです。それを意識的に映像化すれば、こういう映画になるだけのことですが、それをちゃんと表現しているところが秀逸でした。
ただ、まるでグランドフィナーレのようにオーケストラの演奏会場に初老のジュリアが招かれるシーンは、とてもわざとらしく感傷的で、必要以上に感動を煽っているようです。個人的には蛇足っぽい印象でした。