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ミッシングのnomoreのレビュー・感想・評価

ミッシング(2024年製作の映画)
4.2
"missing"
ずっと"missing"...
ずっと出口がわからない"missing"...

辛かった
苦しかった
しんどくて観ていられなかった

早くハッピーエンディングにしてくれー!
何度もそう心の中で叫んだ

ずっとずっと"missing"な夫婦の苦悩はいかばかりなのか。

自分の感情と想像力など微々たるものなのだと思い知らされる。
しかし心は掻き乱される。

母・沙織里(石原さとみ)
彼女の焦燥、苛立ち、苦しみ、悲しみ、怒り、後悔、自責、自虐、狂気、絶望...そして優しさ
観る者をいたたまれなくする、鬼気迫る圧巻演技の石原さとみ。

自分自身が子どもを産んだからこそ、この母親の過剰なまでにリアリティある演技ができたのだろう。
キラキラした彼女のイメージは全くない。
荒んだ母親になるために、肌や髪だけでなく眉毛にまでこだわったという。
心も体も削って魅せた彼女の新境地。

父・豊(青木崇)
ずっと彼の目線で観ていた気がする。
妻の狂乱と暴走に耐えながら、寄り添う優しい夫。
妻との温度差。自らの苦悩は押し殺す。
彼がいてくれなかったら沙織里はとっくに崩壊していただろうし、夫婦関係も"missing"していただろう。
苦渋にじむ青木崇の演技も圧巻だった。
彼の涙が忘れられない。

弟・圭吾(森優作)
裏のMVPの演技!
表でもいいくらいだが裏であることに意味がある。
もうなんとも言えないイライラ嫌悪感を抱かせるメンヘラ演技が圧巻だ。
車での告白が忘れられない。

地方テレビ局記者・砂田(中村倫也)
一方で彼の物語でもあった。
彼を通してメディアの問題点をあぶり出す。
記者としての矜持と組織と世間が望むものとの軋轢。
その間に立って葛藤する記者を、抑えた演技で魅せた中村倫也も圧巻だ。
ガラス越しの表情が忘れられない。

そして監督・吉田恵輔
"人間描写の鬼"の異名どおりの圧巻の演出と脚本。
本作も観客に壊れた世界を提示し、〈わたしたち〉の物語にしてくれる。
いまそこにあるリアルな狂気と闇、ほんの少しの光を観せてくれる。

辛くなるから二度と観たくない。
今の正直な気持ち。
だが、同時に観てよかったと心底思える傑作だ。


余談
突然ぶっ込まれる虎舞竜ネタ

「いまそんなこと言うなよ」と誰もが思うが、これこそが現代の闇なのだ。
どんなに悲しい出来事も真面目なこともネタになってしまうのだ。
事の本質は埋もれ、笑いや誹謗中傷のネタとして消費される。

いま一度あの虎舞竜の歌を聴き直してみよう。
ネタとしてではなく。
きっとこの物語と重なるはずだから。
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